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京町家再生研究会
京町家通信  vol.100

ふり返る30年/これから再生研への期待

 『京町家通信』の発行が第100号を迎えることを慶祝いたします。初号が1995年でしたから、それまでの立ち上げ期も入れると30年間にわたる活動の記録をふり返ってみることができます。「さすが京の町衆の流れをくむまちづくり、画期的だ。再生研ができて本当によかった」と感激しています。再生研を立ち上げる準備期であった1990年後の日本は、バブル経済とその破綻期にあり、京都の都市域でも投機的不動産投資による地上げが激しくすすみました。世界が注目する歴史都市のもっとも特色あるマチナカ=商人・職人・アルチザンたちが幾世紀もかけて創ってきた伝統的な都市居住の場が消えてしまう。各地の伝統的建造物群の保存運動にかかわっていた私も、大学の研究室を拠点に、関心のある学者、プロ専門家、行政スタッフ、町家活用を行っている市民によびかけて<チェントロ・ストリコ>研究会を開き「歴史的都心地区における町家・町並みの保存と継承の具体策」という調査報告・提案(1993)をまとめました。現地調査では吉田孝次郎先生の御宅やマンション問題と取り組んでおられた新町界隈にも出入りさせていただきました。提案をもってまわりましたが「結構なお話しですな」「バブルで我が家の資産価値は億単位」「維持補修費を払ってくれるのですか」などすげない返事が多数でした。

 ところが再生研がオープンすると、町家の住民、オーナー、町家を維持管理する大工職人・不動産斡旋業など当事者が積極的に参加しておられます。さらに町家の生活文化ということになると市民や全国のファンが関心をよせる。さすがは京の町衆集団、やらねばならないときは立ち上がる。この時期、京都を破壊から守る運動が高まり、町家の価値の見直しなどこのあたりの前後10年は目をみはるばかりでした。再生研の誕生と市民にささえられた活動は、建築としての町家だけでなく暮らしやまちづくりの文化の継承を支援する市民機関として逞しく枝を伸ばしています。京都では大学や研究グループ、学生、特色あるコミュニティや年中行事組織も大切ですが、再生研は諸団体とも連繋しています。同時期1997年に設立された京都市景観・まちづくりセンターは市民・コミュニティと行政・公的機関がパートナーシップでもって進めるまちづくりの推進を支援することが目的ですが、京町家まちづくり悉皆調査、京町家再生プラン、景観・まちづくり市民大学、東京・NYでのシンポ、それに京町家ファンドの運営でも再生研はその実行力を発揮されました。

 30年前のバブル期とくらべて歴史都市の伝統を活かす京のまちづくり態勢は大きく前進しました。しかし、このまま順調に発展と安心はできません。

 マチナカの京町家再生ゾーンの将来の市民とは、現住の市民の後継者はもとより京都を理解しまちづくりの主体になりそうな人びとをグローバルに募集してゆく戦略が求められます。次世代の町衆の育成が基本です。人口減少、個人事業所の減少の時代のなかで、京都でも空き家・空き地問題が想定されていますが、同時に魅力があり環境が守られる京の空間は全国・海外からの不動産投資の好物件になるでしょう。そこを京都リゾートゾーン化にしないで、町衆ネクストが定住できる場との共生をはかっていくことです。後継者や来住者でまちづくりのコアになってくれる人材を集めることが大切になるでしょう。

 いよいよ事業経営の方式が課題です。再生研はこの30年間で、京町家の保存再生について、今後進めるべき研究テーマや普及したい事業モデルを開発しておられます。基本的に民営を基調とし、公的機関とのコラボのできる経営体制をめざしてほしい。ファンド、税、法制、事業の信用や評価方法の検討も求められます。「再生研ができてよかった」から「京町家の伝統を継承するまちづくり事業が普及してよかった」を評価されるように頑張りましょう。

 世界がみとめる歴史都市・京都への期待には、まちづくりの情熱と英知の発信で応えましょう。

三村 浩史
  <京都大学名誉教授、 京都市景観・まちづくりセンター前理事長>