• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組
作事組の職人さん・その32

左官職

(さくあん)
 2018 年6 月にフランスから来日し、翌年の6 月までさくあんで左官見習いをしているNina LEROUVILLOISさんにお話しを聴きました。Ninaさんは現在、台風21号で損傷した京都御所の土塀を作る仕事をしています。

――日本に来た理由を教えてください
 子供の頃から日本のマンガや音楽が大好きだったので、リセ(高校)で3年間日本語を勉強しました。その後一年間、ランスにあるECOLE BLOTというアートスクールで錯視画を学んだあと、6年制のCompagnons du Devoir(職人大学校)建築塗装の過程に進みました。この学校では4年生になると外国へ出て1年間学ぶことが決まっています。私は日本の伝統文化に関心があって、京都で左官の技術を学ぶことを選びました。

――日本の土壁の歴史を見に行きましたか。京都から近いところで、1350年前の奈良の桜井市の山田寺土塀の遺構、1300年前の法隆寺金堂の壁画木舞の土壁などが現在に残っているそうです
 奈良の法隆寺のほか寺社を何か所かお参りしました。そのほかには烏丸御池のマンガミュージアムも面白かったです。日本文化のモダンとトラディショナルのミックスされたところに魅力を感じます。

――土壁の原料は製造過程で燃焼反応をしないので、エネルギーコストが低く、地球にとっても負担の少ない材料です。大地と同じ素材で包まれることによって感覚的に安らぎを覚えるだけでなく、吸放湿性、防火性能、耐震性ともに性能の高さが実証されています。京都は特に左官の技術を磨くのに恵まれた場所だと思いますが、フランスの学校では自然素材の建築を学ぶ機会はありましたか
 私がフランスで学んできたのは化学製品を使ったペンキ塗装のようなもので、自然素材の塗料も研究されてはいますが、ゆっくりとしたペースで、施工例も多くありません。京都では、石灰、麻、藁、のり、砂、水を混ぜた材料で、養生をして、壁の下地に土を塗ります。足元のほうを塗るのが難しいです。

――今後の目標を教えてください
 来年の6月まで日本の左官技術に学び、5年目にはフランス国内を巡り各地で修行をします。最終学年を終えて卒業後は、自分で壁を作り、壁画を描くことが出来るようになります。建築と絵画の両方で活動できれば面白いと考えています。

  

***

 さくあん萩野親方の話では、京都御所で高さ2.2〜 2.3メートル、長さ100メートルほどの土塀を二種類作り直すそうだ。Ninaさんも鏝を使って荒壁土塗り・裏返し塗り、ひげこうち、ちりまわりの細かい仕上げまでやっている。夜は、工房に帰って、18時から20時まで練習の日々を送っている。Nina さんのご両親が住むTROYES(トロワ)はルネッサンス期に建てられた木組みの家並みが保存された古都で、職人に恵まれ教会の彫刻とステンドグラスも傑作ぞろいだそうです。2018年は日仏友好160周年で、文化交流イベントが盛りだくさんのなか、日本の左官の技術をフランスへ持ち帰ろうと一所懸命学んでいる22歳のNina さんに会えて嬉しく思いました。今後の活躍を楽しみにしています。

聞き手:森珠恵(作事組事務局)

(2018.11.1)