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京町家作事組
作事組の職人さん・その28

大工

(辻工務店)
棟梁塾にて 革ジャンにバンダナ姿が辻さん
 「作事組の職人さん」も、いよいよ最終回です。昨年作事組に入られた辻工務店の辻勇治さんにお話を伺いました。トレードマークのバンダナ姿でご存知の方も多いのではないでしょうか。

──意志を貫いた30代
 僕は父が工務店をしていたんです。高校卒業後、父と叔父に2年半徹底的に大工仕事を教えられた後、修行に出されました。家にいたら甘えが出るからと。家では跡取りやから、下請けの業者さん達から持ち上げられて、いわば王子様。それが修行先では使い走り。王子様から下僕ですよ。でも、出て良かったのは、技術だけでなく材料の見方や業者さんとの付き合い方など、師匠や先輩からいろんな事を学べたこと。修行先は自分の経験に合わせてその時々で興味のある仕事をしている工務店を探して、何ヶ所かで働いた後、30歳の頃、家に戻りました。父が工務店を解散すると言うので、看板だけ引き継いだんです。そこで初めて、自分で仕事を取る難しさに直面しました。いろんなセミナーに通ったりしましたよ、工務店の経営の仕方とか。でも結局は、自分の好きな事をやろうと思ったんです。店は解散したので、残ったのは僕と従兄弟の二人。だから慌てることはない、やりたい事やろうと。それで、伝統工法以外の仕事は引き受けないようにしたんです。そのせいで周りからは生意気やと言われたりしました。でもそのうち、こういう仕事はこいつに頼もうと言われるようになって。そうなるまで時間はかかりましたけどね。石場建てで金物は使わず下地編んで…みたいな仕事ばかり来るようになりました。そのせいで頼まれる仕事のハードルもどんどん上がってくるんですけど(笑)。自然と町家改修の仕事も多くなり、棟梁塾に入ることになったんです。

──棟梁塾の一期生
 棟梁塾には、今まで自分がやってきたことの見直しと、新しい発見を求めて入りました。専門の職人さんから普段なかなか聞けない話を聞けるし、面白かったです。作事組にも入れてもらえ、学んだことを実践できるのはいいシステムだと思います。良き仲間にも出会えたし。職人って横のつながりがあまりないんですよね。一期生は同じ年代の個性あるやつばっかりで、卒業してからも一緒に仕事してます。
 30歳の頃、“す(好)きや大工の会”というのを作ったんですよ。将来に不安を感じている大工が周りに多かったので、横のつながりを作ろうと思って。飲み会したり、建築を見る旅行に行ったり、今でも続いてます。

──町家の仕事
 この仕事で大事なのは、ぶれないことですね。手を抜かない。その場しのぎは絶対しんとこうと。当たり前のことを当たり前に、必要なことは必ずやる。難しいことではないですよ、心がけだけですから。必要なことは絶対必要だと、お施主さんにも説明します。
 難しいのは、既存の物を再利用してほしいと言われた時、それを損なわないよう不自然でないように納めることかな。古い板を使ってほしいと言われた場合、完全に削ってしまえば風合いがなくなる。塾長が言われたことですが、「仕事の苦労を見せたら二流や」と。普通にあったように見せるのが難しいんです。古い家は生きた教材ですよ。昔の職人さんが考え抜いた仕口をばらして作り直すのは、楽しいですねえ。
 最近、構造改修だけを頼まれることが多いんです。内装は別の工務店がするんやけど構造を直せないから…と。大工冥利に尽きますね。大工は木組みが面白い。材料によっても全然違ってくるし、寸法、仕口、墨付け…こういうのを考えるのが楽しい。アーティストではないんです、僕はそこまでじゃない。やっぱり職人なんかな。

──建物は手塩にかける
 建物って娘みたいなもんですよ。手塩にかけて育てたのに、嫁いでいくんですよ。しかもそれで終わりじゃなくて、何かにつけて実家に帰ってきたり、面倒見なあかん(笑)。僕にも2人娘がいるんですけど…。アフターケアに行くのは、建具の調整や設備関係が多いかな。お客さんのほうも年を経るにつれて家族の状況が変わるので、それで行くことも多いですね。
 今44歳ですが、やってみたいと思っていた仕事は、いつの間にかさせてもらえてるんです。お茶屋に古民家、石場建ての新築、堂宮も。あとは、町家の新築ぐらいかな。
 えらそうな事を言うても、僕らの仕事って結局、自分で何かを生み出したわけではないんですよね。いにしえよりずっと続いている大工仕事を学ばしてもらって生活させてもらってる。時代の流れの歯車になれたらいいと思うんです。飛び抜けた人間なんて100人に1人もいない。若い時は俺は俺はって思ってましたけど、一人では何もできない。どんなにすごい大工でも、結局は昔の大工さんが考えたことを学んでやってるだけやから。学んだことを誠実に着実に回数をこなすことで出来るようになっていく。それを次の若いやつらに伝えられたら、ベストだと思います。

 読書家で熱烈なサッカー(バルセロナ)ファンでもあり、年に1度は必ずスペインまで応援に行かれるとか。男気あふれるキャラクターで、若い大工さんから兄貴分として慕われている辻さん。お会いするたびに元気をもらえる大工さんです。
聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

会社メモ
 辻工務店
 京都市西京区桂上野西町206

(2014.5.1)