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京町家作事組
作事組の職人さん・その27

大工

(大下工務店)
大下工務店の若手3人衆。
左から皆瀬さん、大下さん、本多さん。
 今回は大下工務店の大下尚平さんにお話を伺いました。町家の未来を支える若手、33歳の大工さんです。

──幼い頃から決めていた道
 僕は親父が大工で、幼稚園の頃から仕事場に連れ回されていました。材木の加工場にはよく行きましたね。そこにはよその職人さんもたくさんいて、遊び相手になってくれました。トラックに乗れるのも嬉しくて、仕事場に連れて行ってもらうのは楽しかったです。小学生になるとノミを持つようになりました。玄能を振り回しては空振りして、よく青あざを作ってましたね。他の職業に就きたいと考えたことはなくて、自然と自分は大工になるもんやと思ってました。高校卒業後は実務が学べる京都府立高等技術専門校に行きました。その後、親父の店(工務店)に入って、よその現場の応援に行くことから仕事を始めました。それまでもずっと仕事を手伝ってたから、特にしんどいと感じることはなかったです。周りは顔見知りの職人さんばかりでしたし。一方で、他の店に修行に出なかったのは自分の弱みだと思います。自分の店しか知らないから世界が狭くなる。そういう焦りもあって25歳の時、棟梁塾に入ることにしたんです。

──棟梁塾に入って
 一期生はみんな僕より年上の先輩だったので、最初の頃は授業中に発言を促されても全然しゃべれませんでした。でも尊敬できる先輩方に出会えて、人生の転機になったと思います。作事組のマニアックな職人さん達とも知り合えましたし(笑)。昔と違って今の職人さんは、聞いたら結構教えてくれるんです。すごいと思う人ほど、気安く教えてくれる。おまえに理解できるか?って感じでですけど(笑)。材料の買い付けにも連れて行ってくれたり、棟梁塾での出会いはとても大きいです。同期のみんなに推してもらって作事組の理事もさせてもらい、本当に感謝しています。
 棟梁塾で山鉾の実測調査のお手伝いをしたのをきっかけに、数年前から船鉾の組み立てと音頭取り、太子山の組み立てをさせてもらっています。棟梁塾の先輩方にも山鉾に関わっている人が多くて、祇園祭で再会できるのは面白いですね。
 塾長から、大工は広く浅く知識を増やすことが大事と教わって、お茶のお稽古も始めました。番匠保存会という会に入って、“チョウナ始め”や“木遣り歌”といった大工の伝統儀式の保存活動もしています。こういう事に興味を持つようになったのも、棟梁塾がきっかけですね。うちの店では、僕と同級生の皆瀬君が三期生、入社4年目の本多君が四期生で勉強中です。

──町家の仕事
 棟梁塾生にも現場での経験が必要ということで、作事組の工務店さんの改修現場に応援として参加させてもらうことができました。それが町家の改修に携わった初めての経験です。町家の改修を見て驚いたんは、ものすごく手間をかけてるなあということ。町家自身が一般の木造建築に比べて、手間のかかった建物なんです。ボルト頼みでなく木組みやから。戸袋に薄板を張る時も後ろに蟻桟を掛けるとか、一つ一つの仕事がとても丁寧。見積りするのも難しいんです。工事を始めないと見えない柱の腐れがあったりするから。
 町家の仕事で一番印象に残っているのは、やっぱり釜座町町家の改修かな。最初の状態が酷かったし、隣地と高低差があって、壁を取ると隣りが土(地層)だったり、天井をめくったら梁が完全に折れてたり。たくさんの人が関わったから色々な意見が出て、大変といえば大変でしたが、それも楽しんでしまえばいいんです。

──若手ならではの壁
 作事組での改修の場合、代々のお付き合いではなく初めて出入りさせて頂くため、お施主さんとの信頼関係が無いところから始まります。だから、信頼関係を築くのが一番難しいですね。僕はまだ若いこともあって、お施主さんから厳しく言われることも多いです。京都ではルールを守らないと仕事できません。仕事をきっちりすることで信頼してもらうしかないですね。自分が現場で采配を振るうようになってからは、性格もだいぶ変わったと思います。以前はもっと無口でしたから。
 若い大工は少ないですね。僕が学校へ行ってた頃より減ってると思います。汚れるのがいやなんちゃうかな。町家の大工さんはみんなドロドロになって仕事してるけど、他の建築の大工さんを見てると、そのまま家に帰れるんじゃないかと思うような綺麗な格好してますもんねえ。

──将来の目標
 親父もずっと木造建築を手がけてきましたが、僕の仕事は町家が中心になりました。親父は僕の好きにさせてくれています。昔は怖かったんですけど、年々優しなってきて気味悪いくらい(笑)。将来は、長屋の全体構造改修とかしてみたいですね。町家の全改修はやりがいがあります。あとは、三階建て町家の構造改修とか…一番はやっぱり、伝統工法での京町家の新築をやりたい。でも、小さい仕事でも、どんどんやらせてもらいたいと思います。最近、小さなお稲荷さんや祠の修繕など、ちょっとした社寺のような仕事を頂くことがあって、それがすごく楽しいんです。
 大工は目が見えるうちは現役で続けたいですね。趣味のバイクは段々と乗らないようになりました。怪我するほどしょうもない事はないもんね。息子が2人いるんですが、親父が僕を仕事に連れ出し始めたぐらいの年齢になりました。今は大工になってほしいとか思っていませんが、父親の僕が楽しそうに仕事してたら、やりたいと思ってくれるんちゃうかな。僕がそうやったから。

 年上の職人さん達から可愛がられ、環境にも恵まれているように見える大下さんですが、全ては勉強熱心で礼儀正しい人柄の賜物なのでしょう。棟梁塾の教えも確実に受け継がれ、頼もしいかぎりでした。
聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

会社メモ
 有限会社 大下工務店
 京都市北区大北山原谷乾町101-36

(2014.3.1)