• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組
作事組の職人さん・その22

現場監督

(熊倉工務店)
会社の中に造られた茶室の前で。社員さんは
皆ここでお茶のお稽古をされるそうです。
 今回は、熊倉工務店の小幡真次さんにお話を伺いました。シリーズ22回目にして初めての現場監督さんへのインタビューです。

――この道に入ったきっかけ
 叔父が工務店をしていたんです。学校から帰る途中に作業場があって、小学生の頃はよく寄り道して暗くなるまでかんなくずで遊んでましたね。親父も瓦職人で、夏休みや冬休みには手伝いに駆り出されていました。そういうのを見ていて面白さが出てきたんでしょうねえ。中学生の頃にはこの道に進むと決めて、工業高校に入りました。卒業と同時に現場監督として熊倉工務店に入り、もう40年勤めてます。今では私がいちばん古いです。
 入社した時、職人さんはみんな年上で、自分の親父ぐらいの年齢の人ばっかり。その人達に、ああしてほしいこうしてほしいと言わないかんのですけど、言い方が難しい。聞いてもらわないかんし、怒るとこは怒らなあかんし。それが困ったですねえ。どの職種でも職人かたぎの人が多かったですから。話をした時は「わかったわかった」って返事してくれるんですけど、会社に戻って先輩に報告すると、「それは横に付いて見ておいたほうがええぞ」と。すぐ現場に戻ったら、ちょっと違うことをされていたりね。そんなこともありながら、だんだんと監督の仕事がわかってきました。

――現場監督の仕事とは?
 会社にもよりますが、うちは現場の実測から始まって、図面を描き、見積もりして、材料を注文し、請求書を書いて集金にも行く。全部やるので大変やけど、いろんな仕事を覚えさせてもらえます。
 現場が始まったら、毎日顔を出します。納まりが合ってるか、材料は間違いないか確認し、全業者の監督をします。左官屋さんや瓦屋さんなど色んな職人さんが、ここはどうするんや、と聞いてこられる。全てわかってないといけないので、いつになったら一人前になるんやろ、という感じですね。私の場合は15年位かかったでしょうか。
 監督に必要なのは、コミュニケーションがとれる性格。現場の職人さんだけでなく、お施主さんとの打合せや近隣とのお付き合いもありますから。自信を持って話せることも大事です。あとは、覚えることがたくさんあるので、飲み込みが早いことも必要ですね。

――町家の仕事は
 町家の改修は全体の3割ほどでしょうか。全て手仕事なので、期日までに終えられるように管理するのが難しいです。天候にも左右されますしね。台風の時には夜中に見に行ったりもします。
昔ながらの材料と方法とで改修するというのは、新建材と違い、天候などの条件で材料が変化するのが難しいところです。木材を加工して取り付けた後から乾燥して小さくなり、狂いが出てくる。特に普通と違う納め方を指示された場合、そうなることが多いです。3、4年経って動きが止まると、狂いも直りますけどね。木は15年、20年寝かしてあったものを使ったところで、製材してかんなで削って現場で取り付けると、乾燥するんです。逆に雨の日に現場に運んで湿気を吸い、膨らむこともあります。
 あるお宅のヒノキ柱で、一部に割れが入っているんですが、梅雨になるとその部分がくっつくというのがありました。冬になると、また割れてくる。お施主さんも、自然のものやから、とそのままで20年以上使ってはります。木はいつまでも生きてるんやということがわかりました。
 最近では古材を使ってほしいと言われることも多いんですけど、古材の場合、黒くなった表面を削るでしょ。そしたら内側は白いから、木喰い虫が喰った穴が見えてきたりするんですね、何十年も使われてきた木やから。白蟻と違うので問題ないんですけど、お施主さんは、そんなん困ります、と言われる。古材とはそういうものなんだと知って使ってもらえたらと思います。
 木のためには、冷暖房を使いすぎると良くないですね。あと、木は手入れをされるとツヤが違ってくる。からぶきだけでいいんですよ。

――長いお付き合い
 注文住宅やから、お施主さんとは建ててからのお付き合いですよね。私が20代の頃に建ったお家だと、もう30年行ってます。突然電話がかかってきて何十年ぶりに訪ねることもありますが、お施主さんは代替わりしてお顔がわからなくても、建物を見ると懐かしいなあと思い出します。 何十年経っても形が残ってるというのは、いいですね。たまに前を通ると、この家は私がやったんやなあ…と。苦い思い出もよみがえりますけどね(笑)。

***

 2年前に初めてお会いした時は、日焼けしたお顔とパーマヘアが少し近寄りがたい印象でしたが(失礼!)、実は笑顔がキュートで(また失礼!)とっても気さくな小幡さん。きっと職人さんにもお施主さんにも慕われるお父さん的な現場監督さんなんだろうなあと感じました。

聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

会社メモ
株式会社 熊倉工務店
京都市東山区五条橋東5丁目476

(2013.5.1)