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京町家作事組
作事組の職人さん・その18

瓦工事

(光本瓦店)
屋根の上の瓦葺き、光本さん。
 屋根に上がる瓦屋さんにとって、夏は過酷な季節です。そんな時期、光本瓦店の光本大助さんにお話を伺いました。

──いつのまにか瓦屋に
 親父が瓦屋で、小学生の頃からずっと仕事を手伝っていました。でも親父からは、継ぐほどのもんでもない、他の仕事をしろと言われてたんです。だから継がないつもりで、京都工繊大の工業化学科に進みました。ところが、学生時代に後輩を誘って親父の仕事を手伝ってるうちに、気がついたら自分で瓦屋をしてたんです。高校の理科の実験助手になれへんか、という誘いもあって悩んだんやけど、その頃には瓦屋から抜けられへんようになってたんですわ。
 今はバイトを含めて12人の職人がいます。うちは町家の仕事は4割位やけど、それでも多いほう。洋風の新築の瓦葺きや、太陽光発電の取り付けもします。最近では、二条城の隅櫓(すみやぐら)の瓦の修理もやらせてもらいました。

──瓦の移り変わり
 瓦屋は、しょっちゅう呼び出されてたらいかんのですわ。何十年ぶりにお客さんから電話がかかってきたりするから、局番が変わる地域には引越しできません。
 昔は土葺きだったので、30年くらい経ったら土が緩んできて、葺き直しというのをしてました。瓦はそのまま使って、土だけを練り直すんです。僕らは土葺きを覚えた最後の世代です。土葺きは、阪神・淡路大震災で突然なくなりました。それまで京都では土葺きが当たり前でした。お客さんから、土たくさん入れてや、と言われたものです。土を始末すると緩くなるんでね。土に頼って留めてるんじゃないから、そんなにたくさん入れる必要もないんですけど。
 今は引掛桟葺きが主流です。瓦に爪が付いていて、桟に引っ掛けて釘で留めれば、ずれません。昔は何枚かに一枚を釘で留めればよかったんですけど、今は全部留めて、一枚として離れて落ちていくものはないようにしようと瓦業界が自主規制しています。
 瓦は重いからイヤという人には無理にお勧めしません。屋根の重さは建物全体とのバランスやから、軽ければいいというわけではないんですけどね。色んな重さの瓦を使った試験結果をお伝えして、後どう考えはるかはお客さんにお任せしてます。

──町家の仕事は
 子供の頃、周りは町家だらけでした。友達の家も仕事先も、ほとんどが町家。田の字の中だけで仕事をしていた親父は、大八車に瓦を、自転車にハシゴを積んで仕事に行ってました。
 京町家は屋根の流れが長くて、それが難しい。屋根が歪んだままだったりすると、むくりの線をきれいに出すのは大変なんです。天窓を納めるのも難しいけど面白いですね。天窓は雨が漏りやすいんです。開口部やし、水がぶつかるし。うまいこと留めるのに醍醐味を感じます。
 町家って単純なんですよ。そんな込み入ったものではなくて、あっさりしたもんなんです。アクがなく存在を主張しいひんように、どうスマートに見せるかが大事なんやと思いますね。でも、それが難しい。難しそうなことをあっさり仕上げられるのが、本当に上手な職人です。いつの間にそんな簡単に済ませたん、と言われるようなのがいいんですね。
 町家ではないですが、四条天皇陵の仕事は印象に残っています。ものすごく大規模な土木工事でしたが、瓦は最後にちょこんと乗るだけ、予算の中でもほんのわずか。ところが完成したら、塀瓦が何十メートルも続いていて、ぱっと見たら瓦ばっかりがキレイに目立つんですよ。これは痛快でしたねえ。値打ちありました。
──年を取っても動いていたい
 瓦屋はずっと、あかん商売やったんです。瓦なんかどんどん無くなると言われてましたしね。瓦は木造建築だけのものじゃないけど、やっぱり木造が元気にならんと瓦も減ってしまう。それで、商売と興味半々で、木の文化を守る団体に入ったのをきっかけに、行く先々で誘われるままいろんな団体に参加するようになって。ある時気づいたら、木造建築に関係ある京都の団体、全部に入ってました。バブルの頃はゴルフやって営業する人も多かったけど、こうやって自分流に動いていたら仕事も増えてきたんです。
 昨年、同志社大学大学院総合政策科学研究科のソーシャル・イノベーションコースを修了しました。研究のテーマは、引退後の職人と就職できない若者を結びつけて職業訓練するという“しごと蔵”構想。たまたま、失業対策事業の助成を受けられる数寄屋修復の現場があったので、素人の若者達に高齢の大工棟梁が指導して、大工、屋根、左官仕事などを経験してもらうという社会実験を3年間やりました。ずっと、職人の老後の問題をどうにかしたいと考えてるんです。年を取ってからも長いこと動けるようにね。将来は、“半農半瓦”の生活をしたいと思ってます。

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 オープンマインドなお人柄で活動的な光本さんに、刺激を受けることの多い取材でした。興味深い瓦の話は尽きませんが、またの機会のお楽しみに。

聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

光本瓦店有限会社
 京都府京都市北区大北山原谷乾町117-8
 HP:http://roofmits.net/index.html

(2012.7.1)