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京町家作事組
作事組の職人さん・その17

大工

(株式会社アラキ工務店)
今回の現場で一番やりがいがあったという階段。
 今回ご紹介するのは、アラキ工務店の大工さん、築山史典さんです。作事組で改修中の現場を訪ね、お話を伺いました。棟梁の荒木正亘さんも登場します。

——どうして大工さんに?
築山   大工になったのは18歳の時やから、もうすぐ20年になります。
荒木   だいぶ苦労したなあ(笑)。
築山   実家は八百屋なんですけど、もともと設計に興味があって、物を作るのも好きやったから、大工見習いとしてアラキ工務店に入社しました。最初は新築現場の基礎工事と掃除の担当。周りの職人さんの仕事を手伝いながら少しづつ仕事を覚えていって、4年くらいで大抵のことが出来るようになりました。
荒木   私の店では5年で年季が明けるので、その前に墨付け、刻みが一人で上手に出来るようにします。
築山   先輩に聞いたら何でも教えてくれるけど、そんなにしょっちゅう聞かれへんし。先輩の仕事を見て、同じことをするという感じです。道具も1回目は借りるけど、2回目からは自分で買って。
荒木   道具いっぱい持ってはるで、軽自動車一杯分ぐらい(笑)。難しい仕事しようと思ったら、どうしても必要な道具というのがあるからね。道具は凝り性の人もいるし。
築山   以前は道具にも凝ってたけど、最近は何でもよくなってきたなあ(笑)。
荒木   彼は昔から仕事が丁寧。良い加減にしとけ、と言ってもしないタイプ。大工にもいろいろ性分があるからね。
築山   今はチーフのような立場で、現場を任されてます。
荒木   こないだお寺もやったし、もう出来ひんもんはないね。

——町家の仕事はどうですか?
築山   町家の仕事が面白いのは、歴史があるところ。どの家もみんな違って、同じ家というのがないね。
荒木   私とこは8割が町家の仕事やけど、そういう意味では、一軒一軒、どれも初めての仕事やな。

——町家の仕事で難しいところは?

築山   難しいこと?別にないなぁ…。
荒木   19年もやってると、ないね。逆に、難しい仕事があったほうが刺激になる。
築山   そうやね。今までにやったことない仕事が好きです。この現場だったら、階段。裏からも横からも全部見える階段は初めてなので。寸法を計算したりするのが楽しかった。いつか、茶室を作ってみたいですね。

——今までで印象に残っている仕事はありますか?
築山   う〜ん、ひとつ現場が終わると、次の現場が待ってるからね。小さい失敗も色々あったけど…自分の中では失敗やけど、なんとかなる、という範囲。
荒木   仕事は振り返ることが大切。振り返ると、おかしいところがあったら気づくでしょ。一日の仕事が終わったら掃除をするんやけど、何か問題があればその時にわかる。いつも言うんです、掃除は次の仕事のためにするんや、と。その日の仕上がりをしっかり見て、次の日の段取りを考えながら掃除する。ここに物が置いてあったら明日の作業の邪魔になるな、とか。
築山   僕も若い頃に言われました、掃除しながら仕事覚えとけ、と。

——お休みの日は何を?
築山   子どもと遊んだり。でも、お昼まわったらもう現場のこと考えてるなあ。明日どうしよかな、って(笑)。家では大工仕事しませんけどね。
荒木   私も昔、母親から言われたよ。「どこか大工さん紹介して」って(笑)。

——町家に住む人にお願いしたいことはありますか?
築山   傷む前に大工さんを呼んでほしいなあ。建具やったら普段からロウを塗るとか、手入れしながら住んでほしいと思います。そうすると長持ちするし。悪くなってからやと手遅れになることもあるからね。
荒木   最近は、完成してから呼んでくれはる家が少なくなってきたね。
築山   以前手がけた家に呼んでもらうことがあると、こんな風に使ってはるんやなあ、とわかって面白いです。

***

 荒木棟梁と築山さんの会話は、まるで叔父さんと甥っ子のような雰囲気。普段から大工さん同士がコミュニケーションをとり合っていることが測られるやりとりでした。のんびりした口調で「仕事で難しいこと?ないなぁ…」さらりと言う築山さんから、自然体ながらも大工さんの矜持を感じたインタビューでした。

聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

株式会社アラキ工務店
 京都市右京区梅津高畝町52-2
 HP:www.kyoto.zaq.ne.jp/araki

(2012.7.1)