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京町家作事組
作事組の職人さん・その16

電気工事

(株式会社ホリテック)
ホリテックの皆さん(右端が堀さん)
ホリテックの皆さん(右端が堀さん)
 今回は電気のことならなんでもお任せ、ホリテックの堀さんご本人から文章を寄せていただきました。

■成るべくしてなった電気屋
 私は風呂屋の次男坊。ホリテックというのは中学時代からの自称で、オーディオマニアとして崇拝していたスピーカーメーカー、アルテックのパクリです。工作好きで、高校生の時、自分の部屋の襖を自動扉にしました。風呂屋の2階は旅館の様に廊下が長く、歩いている途中で私にだけ開く仕掛け、私が中にいる時は私の許可ボタンで開く。そこにはパクリはなく、誰もやってないのでホリテックのテクノロジー、と友人に自慢していました。
 工芸繊維大学自動車部卒業と言っているくらいクラブに入り浸り、目標とする日本アルペンラリーに参加。その後、車を作った事もありました。無線趣味が高じてPC作りへ、現在はボケ防止にプログラミングをしています。低周波から高周波までお任せくださいという器用貧乏です。

■電気屋もサービス業
 そのホリテックを本当に開店させた時、びっくりしたのは友人達。この排他的な京都で新規電気店など、しかも寺町の量販電気屋街の近くで、果たしてやっていけるのか。また電気店として成り立つ為には最低でも2,000件の顧客が必要、などと言われました。が、なんのなんの開けてビックリ、風呂屋の番台のおばあちゃん(母)の顔(信用)は想像以上に絶大なものでして。お風呂のお客さんが一気に顧客となってくださったのでした。量販店と競合など全くしません。逆に、知らない人に掛売りするのも怖いので、こちらが排他的になったりします。
 ですから、近所のお客様との信用取引が基本です。高齢化が加速するこの地域の便利屋的存在として、昼夜祭日問わず素早く対応します。その為には、その家の詳細を天井裏まで知っているだけでなく、ご家族関係からお客様の性格まで知り尽くして対応することが、地域密着型の電気店の使命だと感じています。これが出来ない量販は安売りでしか生き残れません。寺町の電気屋街の方がすっかり変わってしまいました。

■修理はエコロジー
 修理に関して、メーカーは部品一式の交換をします。これは修理とは言えません。部品の供給が無くなれば修理不可となり、処分しなければなりません。もったいないですね。これを私は“邪道修理”で直すのが得意です。よく似たものを加工してやるんです。Panasonicの製品に日立のモーターを取り付けたり。アイディアとテクニックが必要です。但しこれも、お得意様だけのサービス。作事組で手がけた宿屋では、電気錠と防犯カメラと携帯とをドミノするハードを自作しました。まさにメーカーです。危険と責任が伴います。アドベンチャー企業と言ってください。

■町家の仕事をして思うこと
 電気みたいなものは明治以降のもので、それ以前の人は電気なしで生活できていた。中庭と裏庭の温度差で風を作り、風鈴で風を聞く。のれんで風を見る、格子で風を選ぶ。(“風に乗る”がないがな?)だからエアコンが不要な事はもちろん、町家には他にも電気不要のテクノロジーは多々ありました。床下は24時間換気。柱も壁も除湿器。とおりニワに水打って加湿器。畳は暖かい。漆喰も明るい、これは光を反射しているが、鏡はさほど明るくない。実は拡散が明るい、だから障子が明るい。床の間に電気は要らない、掛け軸で花を照らす。襖も照らされて明るい照明。出格子が一番明るい。電飾看板よりのれんがいい、揺れて目立つ。天窓は太陽光発電より高効率で北側でも明るい。
 町家はとっくに電気不要の生活をする準備が出来ている。どっちか言うと人の問題。危険な電気の“便利”に慣れてしまった平成の人間に、その生活が出来るかが問題。町家に住みたいではなく、町家に住める人になれるか、その決断が必要。それは人ごとではなくなってきた、と思いますね。ただ電気はその“便利”の前に“速くて”が付いていただけです。ほうきで掃除はできる。新聞はテレビよりちょっと遅いだけ。暗いのはあなたが遅い、次の朝を待ってください。

■後継ぎに越される?
 今、私は昔やっていた熱気球でまた空を飛ぼうと考えています。いくら便利な電気でも、空を飛ぶエネルギーはないです。逆に言うと電気なしで風に乗れます。
 息子も、刑務所といわれる松下幸之助の商学院の刑期を無事終え、バリバリ営業してくれています。ご年配のお客様には私よりも受けが良く、おかげで私はコキ使われております。電気なしで動く便利な道具にされてますわ。
 この若き職人を孫は「じぃー」と呼びます。この孫の為にも電気の要らない物を作りたいです。ちょっと前に堀川君とダン君とで野呂さんの絵で童具を作りました。テックノロじぃーです。またその職人の作ったものに孫が「作:じ」と書いてますが、これはパクリではございません。

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 大工さんも目からウロコをぽろぽろ落とすような、はっとする電気のお話をいつも聞かせてくださる堀さん。作事組のHPにも面白いコラムを数多く寄せてくださっていますので、そちらもぜひご覧ください。

聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

株式会社ホリテック
 京都市中京区麩屋町蛸薬師西入る
 HP:http://www.horitec.com/

(2012.3.1)