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京町家作事組
作事組の職人さん・その15

ガス工事

(株式会社シミズ工業)
釜座町町家にて。右手のついたての中に、宮原さんの仕事が隠れているのです。(ガス管が通っています。)
釜座町町家にて。右手のついたての中に、宮原さんの仕事が隠れているのです。(ガス管が通っています。)
 作事組の改修物件でガス工事全般をお願いしている、シミズ工業の宮原春彦さんにお話を伺いました。今回も、職人さんの意外で楽しい一面をうかがい知ることができました。

――この職に就いたきっかけ
 大学を卒業してから2年間は、外食産業の会社に勤めていました。仕事は楽しかったですよ。でも、その業界では日曜祭日・盆正月に仕事、が当たり前。世間が休んでいる日に休める生活がしたくなって。ガス屋を選んだのはたまたまなんですけど、爾来30数年になりました。
 入社後は、まず一通りガス全般について勉強しました。ガス管の設計・施工から、暖房機器や給湯器などのガス器具まで。大阪ガスの資格も取り、その後は、いわゆる追い回しですね、先輩方の後ろについて現場を回るようになりました。

――ガス工事という仕事
 今は営業部長という肩書きですが、いわゆる営業職ではなく、番頭さんのようなイメージです。工務店さんやエンドユーザーさんから依頼を受けて、期日までにきっちり仕事をして、受け渡す。僕らの仕事は、すぐに対応できないといけないし、“なんでも屋さん”でなくてはならないんです。言うたらすぐ来るし、言わんでも見に来よる、というのが大事。昔から建築現場では、大工さんがトップで、その下に左官屋さんなどの職方さん。電気・水道・ガスといった設備屋は最底辺で仕事をさせていただくのが実情でした。最近ではお風呂や冷暖房もいろんな機能が充実してきましたから、お客さんからのリクエストも増えて、僕らにしかわからない部分も多くなってきましたね。
 難しい注文を受けても、大工さんに相談しながら、必ず実現できる方法を考えます。他の営業の者にも、「できません」とは絶対言うな、と話しています。「ここをこうすると、できますよ」と説明できるようにせえ、と。安全性の問題については、絶対譲りませんけどね。
 京都でガスが使われ始めたのは70年位前でしょうか。五条七本松の辺りにガスをつくる工場があったそうです。最初はガス灯ですね、明かりに使われていました。作事組の現場でも、工事中に昔のガス灯の配管が見つかったことがあります。その後、都市ガスが始まって、玄関先に無粋なガスメーターが付いたんですが、それが、うちとこ都市ガスひいたん、と自慢になった時代もありました。地中に埋めるパイプも昔は鉄管でしたが、今はポリエチレン樹脂。これは埋まってしまえば半永久的に漏れません。材質においては、安全性は格段に上がりました。

――町家との出会い、そこから得たもの
 最初は町家のこと、何も知らんかったんです。町家の仕事は全体の1割以下ですが、させてもらって本当に良かったと思います。現場がすごくおもしろい。見たことないものがたくさん見られる。廃材に見えるようなものでも取っておかれて、上手に再利用してはるんですよね。得がたい経験です。
 町家の工事で気をつけているのは、ガスメーター周りの仕舞い。メーターが不細工やわ、なんとかなれへんの、とよく聞かれます。表格子の近くにあると目立つので、目隠しをしたり、見え方に工夫をしています。
 最近では、町家にも床暖房が多くなってきていますね。茶室でも、お点前される周囲とお客さんが座られる部分だけ入れたりされます。町家の寒さを経験されるのもいいですが、毎日暮らすとなったら快適性にもこだわったほうがいいんじゃないかな。土壁やったら、ファンヒーターをつけても結露することはないですしね。

――もうひとつの顔
 僕は昭和28年生まれなんですけど、京都のフォークソングブームの最後の時代やったんです。高校の時に先輩からギターの手ほどきを受けて、就職や結婚で中断しながらも友達とバンド活動を続けていたんですが、50歳を超えてからは本気を出して。今はホテルのバンケット(宴会)を中心に、各種イベントで歌っています。基本は1人で、ギター1本。フルコーラスで歌える曲が500曲くらい頭に入っていて、いつでもリクエストに応えられるようにしています。
 歌い手をやっていると、人との距離の取り方がわかるようになりましたね。例えば、お施主さんに説明するとき。細かく理論だてて説明したほうがいいのか、ざっくりとポイントだけお伝えしたほうが喜ばれるのか。お施主さんのタイプも千差万別です。お客さんを見て、この人こんな歌好きなんやろうな、と思ったら、たとえ上手に歌えなくても、ここのフレーズを丁寧に弾けば喜んでもらえる、というのがあるんです。そうしたら、自分が大切に思ってる部分を大事に歌ってくれた!と感動してくれはる。宴会で誰も聞いていないと思っていい加減なことをやってしまうと、すぐにばれてしまいます。ギター1本、声ひとつで歌うわけですから。現場でも、自分の責任やと思って一生懸命頑張っていたら、違う業種の職人さんが「あいつ頑張っとったで」と評価してくれたりする。そういう意味では、普段の仕事も一緒ですよね。

***

 いつもにこにこ、歌っておられる姿がすぐに想像できる宮原さん。文字通り、縁の下の力持ち、頼もしいかぎりのお話でした。

聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

株式会社シミズ工業
 京都市山科区西野山射庭ノ上町300

(2012.3.1)