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京町家作事組
作事組の職人さん・その11

材木屋

(三加和木材)

松尾一男さん
今回は、木造建築の要とも言える材木を扱っておられる、三加和木材の松尾一男さんにお話を伺いました。

──材木屋になるまで
 私はもともと、大工だったんです。出身は熊本なんやけど、18歳の時に友達に誘われて京都に出てきました。ちょうど分譲住宅が出始めた頃やね。最初は熊本に戻るつもりでいたけど、大事にしてもろたり、なんやかんやで京都に居残ることになりました。しばらく親方のもとで働いた後、独立して、平成13年までは工務店を経営していました。平成14年から工務店と並行して材木屋を始め、今は材木が本業です。
 取引先は主に工務店で、その中でも、新建材を使わずに伝統工法や在来工法で建てているところが多い。だから材木も国産を主力に扱っています。小売りもしてますよ。最近では自分で作る人も増えたね。
 買い付けはあちこち行きます。主に西のほうで、三重県から南は熊本まで行くね。例えばスギは奈良だけでなく大分も有名で、土台や柱といった大きい材もよく出てるんです。

──町家で使う木材について
 使われる木は、昔からヒノキ、スギ、マツ。これが多い。柱になると、ヒノキを使う地域と、スギを使う地域に分かれます。京都では大体ヒノキを使います。九州に行くとスギの柱が多い。東のほうへ行くと、堅木もよく使われる。ケヤキなんかの雑木ね。産地や気候の違いです。町家で使うのは、スギがいちばん多いかな。スギは芯が堅いんです。いずれにせよ、使う場所それぞれの特徴に合わせなあかん。
 京都では、他の地域に比べると細い材木が好まれます。やっぱり上品なんちがうかな。化粧柱も5寸角以上になると、町家ではほとんど使わない。お宮さんやお寺さんになるな。
 新しい材木だけでなく、古材も扱っています。家屋や寺社を壊す時にもらってくる(買ってくる)んやけど、屋根付きの門とか、水屋や古時計などの道具類も集まってきます。置いておいたらそのうち、付き合いのある工務店さんが引き取ってくれるんです。町家が完成した時に、お施主さんに年代物の掛け時計を贈ったら喜ばれるもんね。

──今までで印象に残っている材木は
 2尺角で8mのヒノキ。これはお宮さんの庫裏の大黒柱になりました。依頼があって探したんやけど、こういう木はなかなかないねえ。最近は山も手入れせずに枝打ちなんかもしなくなったから、国産でもいい木が少なくなった。神社の境内には、これ使ったらええやろなあと思う木があるね。クスノキとかイチョウとかね。この前、お寺さんで邪魔になるというんで伐ったイチョウの大木が手に入ったよ。なかなかいい木やったなあ。

──最近の材木を取りまく状況は
 これまで一般住宅には集成材が多かったけど、最近では、無垢材を使う人が増えました。これも流行かな。でも、全体的には需要が減ったね。以前なら大型トラック1台分仕入れてきた材木が3日で売れたりしたけど、今では3カ月かかる時もある。工務店さんも材木屋も、厳しい時代やね。
 このごろは、大工さんでも材木の使い方を知らん人が時々いて、これは困るなあ。もちっと考えて使ってほしいと思うな。1mの木を2本使えばいいところを、2mの木を1本注文して、切って使おうとしたり。それはもったいない。限られた資源やからね、無垢を使うんなら大事に使ってほしいんや。

──この仕事の面白さは
 自分が大工をやっていたから、どこにどの材を使えばいいかがわかる。現場の様子を想像して、考える。こちらから提案できるというのは強みかな。
 材木置き場の屋根も、自分で構造を考えて作ったんや。筋交いなしで作るにはどうやったらいいかってね。そういうことを考えるのがいちばん面白いな。
 でも一番うれしいのは、やっぱり、利が出たときかな(笑)。まずは商売ができて、ちゃんと生活ができること。そのかわり、仕事がいややと思ったことは今まで一度もない。飽きるということがないね。

◎◎◎

 広い材木置き場には、昔から飼っているうちに増えてしまったという鶏や鴨、ウサギたちがにぎやかに暮らしていました。他にも珍しい野菜が植えてあったり、娘婿さんの仕事場があったりと、楽しそうな空間でした。飾らない言葉の中にも温かい人柄が垣間見られるインタビューでした。

聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

※会社メモ:株式会社 三加和
 所在地 京都市右京区西京極東大丸町23番地

(2011.7.1)