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京町家作事組
作事組の職人さん・その9

給排水設備

(神田設備)

神田拓哉さん
――給排水の設備工事に携わる株式会社神田設備の神田拓哉さんにお話を伺います。
 私は1970年大阪万博の年に生まれて40を過ぎたところですが、父のもとで木造の仕事をするようになったのは30代になってからです。それまでは公共のビルや団地ばかりで、団地30棟のメンテナンスを一人で担当して走り回っていました。いまもビルや団地に水道設備を入れる工事はしていますが、そのほか寺社や戸建て住宅の仕事もしています。

――新築住宅、寺社、町家のちがい

塩ビ管の切断、つなぎ、埋設
 一般の木造住宅に水道配管を新設する際は、はじめに地中配管の埋設を行い、木工事の床組が終わると器具の位置合わせをし、最後に器具付けを行います。配管とは勾配や曲折のあるところにまっすぐの管を通すことなので、管を切ってつなぐか曲げるかしかありませんが、通常の戸建て住宅では、塩ビ管を切って接着剤でつなぐことがほとんどです。年間何百軒というお宅に伺って給排水設備をみせていただいて、業者間で技術の差というのはあまりないなと感じます。
 ただ京都の場合には、古い寺社や町家が多く残っていて、修繕の際に地中から継ぎ目の腐った古い土管や鉛管が出てくることがあります。通常は撤去し入れ替えますが、どうしても残そうとすると鉛管の修繕にはハンダづけの技術が必要になってきます。古くて価値のある建物は、これからも長い年月にわたって維持し受け継がれていくものですから、柱や壁を傷めないよう細心の注意を払います。昨年は1年近く真如堂に入らせていただきましたが、漆喰や聚楽の箇所は仕上げに非常に気を使います。もし壁に傷でもつけてしまったら左官工事のやり直しで大変なことになります。町家でも同様に土壁や柱には気を使います。ですから地中に管を埋設するときの掘り方は、ほぼすべて手堀りで慎重に行います。一般の新築戸建て住宅では掘削の深度が40〜50cmのところ、町家では70〜80cmかそれ以上掘らなければならないこともあります。
 また寺社や町家ほど古くなくとも、京都市域の水道工事は、京都市水道局の基準が15年ほど前に緩和されるまで、地中配管からの立ち上げには鉄管を使うと決まっていましたので、規制緩和以前の設備の修繕には鉄管を加工する技術が必要です。そういった加工技術は現場で常に求められるものではありませんが、難しい公共工事などで確かな技術と経験を積んできた60代、70代のベテラン職人に応援を頼んで、日頃から若手の指導にあたってもらっています。公共工事は規模が大きかったり、採算を取らずにきちっとした仕事がなされているということがあり、どこの工務店にもできる類の仕事ではなく、大変な技術を要します。

掘り方

町家の地中配管工事―水圧測定

赤糸を使って深度測定

――古いものをいかす
 古い家の設備修繕には今では手に入らない部品が必要になることがあり、古い材料を倉庫に集めて磨いておいたり、近いものを探して加工したりという手間もかけます。昔と今とで枡の大きさが変わってしまったので、いざというときのために古い枡を保管しておくと慌てずにすみ重宝されるのですが、とうとう先日すべて放出し在庫が尽きてしまいました。それでもまた町家の改修現場で棟梁に「どこかから探してきて」と言われると断れないと思います。

――給排水の悩みとこれから
 汚水、雑排水の配管トラブルなど、特に負のイメージが強く、通常目に触れないところで起こることですから、一般の方にとっては関心を持ち難く、できるだけ安く済ませたいと思われるところでしょう。給排水設備の取替が望ましいケースでも、そのために壁や土間を壊してやり替えが必要となると、思いのほか大がかりですぐには受け入れられない。しかし手を入れずに放置してしまうと、水が漏れて柱や壁を傷め、沈下の原因になるなど却って問題を大きくすることにもつながります。そこが難しくていつもどうしようかと悩みます。年数がそれほど経過していない配管でも、管の継手が金属ならば、季節や気象条件の変化で伸縮して水漏れすることもあります。緊急の水漏れ対応でも寒い日には接着剤がつかないということもあります。ただでさえイメージがよくないのに、こんな話ばかりすると、なりたい人がいなくなるかと心配ですが、おかげさまで毎日あちこち走り回って仕事は途切れることがありません。

聞き手:森 珠恵(作事組事務局)

※会社メモ:株式会社神田設備
 所在地 京都市左京区修学院中林町1

(2011.3.1)