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京町家作事組
町家改修設計の勘どころ・その4

京町家の改修計画

 シリーズ4回目は京町家改修の設計を数多く手がけている内田康博建築研究所の内田康博さんにお話を伺います。

◎京町家の普遍性と融通性
 昭和の初め頃までの日本の伝統木造建築はそれ以前の長い歴史的経験を踏まえて建てられ続けてきた建物だと思います。使う人と作る人が積み重ねた創意と工夫の結果として大切に受け継がれてきました。「平成15年、20年住宅・土地統計調査」(総務省)によると、日本では「滅失住宅の平均築後年数」が27年とのこと。戦後建てられた住宅がいかにはかないものかを示しています。それと比べて京都市内に4万7千戸現存するとされる戦前の「京町家」は短くても80年以上の寿命を保ち、手入れをすればさらに50年、100年と使うことができると考えられます。
 長く使われるのは、物理的に長持ちするというだけではなく、家族構成や生業が移り変わっても住まれ続ける普遍性、融通性によるものだと思います。京町家では1列3室型の間取りがよく見られます。規模の大小はありますが、その基本形のなかであらゆる生業が行われ、暮らしが営まれてきました。その形式の中に様々な用途に合わせた応用があり、工夫がみられます。たとえば正面の外観をみても、京格子といわれ決まりきったものに思われますが実際には全く同じ外観の町家はなかなかみつかりません。

◎歴史と伝統と町の暮らし

 また、町家は通りの両側に建ち並ぶことで、仕事と暮らしが一体となった生き生きとした町の空間をかたちづくります。土間である通り庭は表の道の延長でもあり、1列に連なる3室はそれぞれ公的、半公的、私的空間となり、家族の生活と仕事の空間を町と段階的に接続しています。町内会や学区を基盤とする年間を通じた行事や祭りが地域の絆を自然と深め、伝統に根ざした暮らしの楽しみや親しみを生み出していますが、その最小単位である町家は、町と一体となり地域での暮らしを育む器となっています。

◎町家改修の基本方針
 町家改修の計画では、以上のような生き生きとした町の基盤でもある町家の空間構成をこわさないように配慮しながら、住まい手の希望や用途にあわせて基本形が生み出す空間の可能性を探ります。木の架構や空間を生かし、電気・ガス・水道などの設備の納め方を工夫します。変えるところもありますが、逆に元に戻せるようにも考えます。住まい手や住まい方、生業も変わってゆくかもしれないからです。住まい手の好みは、建具や畳の縁の選び方の他、いわゆる「しつらい」といわれる部分でも楽しんでいただけますが、まずは建てられた当初の意匠を振り返り、もとに戻すことをおすすめしています。
 もちろん、新しく考えることが必要なこともあると思いますが、歴史の厚みを前にすると、自分一人で考えたことは、どれだけ考えたつもりでも浅はかな、考え不足なものになってしまうように思えます。伝統の形に基づいて、それを壊さないように受け継ぐことで、結果は圧倒的に良いものになると感じています。元の形に戻すことで、想像以上に魅力的な空間が現れることも多くあります。町家に凝縮された数奇屋造、書院造、寝殿造の伝統的な形式は明治、江戸から室町、鎌倉、平安時代に遡り、さらにいえば板間と土間の2種の床形式は弥生時代、縄文時代の高床式、竪穴式の空間にも地続きでつながるように思います。建築としての意味や価値は、歴史との対比の中でしかありえず、歴史に深く根差すものほど価値があるものと感じられます。歴史に背を向け、全てを新しく作り直そうとする戦後の歴史は、一面からのみ合理的な短絡思考で、縄文以前、先史時代から歴史をやり直そうとする無謀な試みのようにもみえます。新たに試みるのであれば、歴史を否定してやり直すのではなく、現に自分が歴史に支えられ、歴史のなかにいることを認識し、歴史の続きを進めることを試みていきたいと思っています。難しいことかもしれませんが、そうでなければ楽しくないのではないかと思います。

◎町家改修と職人さん
 改修の実務のなかでは、建てられた時の職人さんの知恵や住まい手の工夫の跡を辿りながら、維持すべきところ、変えるべきところについて職方と話し合い、使い手の意向を確認しながら作業を進めます。そのなかで大工、左官、建具、畳など、各職の培われた奥深い技術と知恵に触れることができるのは町家改修の現場に携わる者の特権ともいえる喜びで、使い手にもそれをできる限り伝えたいと思っています

聞き手:森 珠恵(作事組事務局)

設計士プロフィール
内田康博

1964年12月 生まれ
京都大学工学部建築学科修了
設計事務所勤務を経て
1999年、一級建築士事務所 内田康博建築研究所 設立
(一社)京町家作事組理事、
  NPO法人京町家再生研究会幹事

(2015.1.1)