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京町家作事組
町家再生再訪・その6

胡乱座

(担当:アラキ工務店、NOM建築設計室)<第2話>
京町家の宿・胡乱座のあるじ大橋さんに伺いました。第1話は前号をご覧ください。

■ 町家生活は思い描いたとおりですか。
 いろいろな物件を見て回り、紆余曲折を経てようやく手に入れたこの町家は、自宅であり職場であり、商売道具であり、「120年前からそこにあるもの(町家)で寝る」というインスタレーションの作品でもあり、消えていくもの、残したいもの、残っていくもの、そのほかいろんなことを感じたり考えるための材料にもなる。自分たちの生き方の表現として楽しく過ごせる家である。町家での生活が思い描いたとおりの生活かと問われると、私の場合、町家ではないが古い木造建物(お寺)で育ったため、思い描いたというよりは慣れ親しんだ当たり前の(普通の)生活といったころだ。したがって私には普通で快適である。私の快適が他の人の快適かどうかは別として。

■ 世界中から訪れるゲストは町家を大切に思うオーナーの心をどのように理解なさっていますか。
 宿の良し悪し、オーナーの良し悪しを個々に評価するのは容易い。実際インターネットでは ”口コミ” 情報が幅を利かせている。有難いことに多くのお客さまが胡乱座での滞在を快く思って帰られる。建物の良さ=オーナーの良さというわけではないが、宿に置いてある自由帳には「建物に対する愛を感じる」と書いてくださる人もいる。しかし宿泊施設を選ぶとき ”オーナーが建物を大切にしているから自分たちも大切に扱おう” と考えるお客さまがどれほどいるだろうか。この点において胡乱座の登録有形文化財という肩書きは有効かもしれない。

■ ゲストハウスと近隣住人とのトラブルを回避するためにアドバイスいただけませんか。
 幸い胡乱座のある町内の方々は、ゲストハウスがどういうものなのか知られていなかった当時でも、快く受け入れてくださった。アドバイスなんてできないが、私が宿を運営する上で気をつけているのは、お客さまにきちんと説明して理解と協力をお願いすること、そしてマナーやルールを守っていただけないお客さまに、責任を持って注意することである。消費者優位でサービスを受ける側を甘やかすこの時代に、どれだけ対等な関係を保てるかである。しかし、それは公平でなければならないし、適切な態度でなければならない。宿のあるじとして近隣への配慮が必要なのはもちろんのこと、お客さまの安眠を守るのも大切な仕事であり、逆に近隣が騒がしければ、苦情を伝えにも行かなければなない。現在増えている一棟貸しや空きマンションを利用した民泊のように、スタッフが常駐していなかったり、メールだけのやりとりで宿泊できるタイプの宿では近隣との関係が薄いためトラブルを回避するのは難しいのではないだろうか。つまり、宿のオーナーさんやスタッフとご近所さんやご町内との付き合い方が大切だと考えている。
■ 国の登録文化財、歴史的風致形成建造物、京都市景観重要建造物という制度について。
 確かにこれらの制度のおかげで、外観の修繕費用の補助金を利用させていただくことができて助かった。また、文化財という”肩書”は、うちのような商売の場合にはお客さまに建物の価値を認識してもらうために有効である。しかし、町家に普通に暮らしている人たちにとって補助金が魅力的かどうか、私にはわからない。町家がどんどん減っていくのは残念であるが、結局のところ、町家を壊すも残すも所有者次第。所有者が町家を日本の歴史的な財産であると考え、残したいと考えていなければ、町家を残すことは難しいと感じる。
 現在(3月末)、胡乱座の隣にはマンションが建設中である。これにより建物に歪みが生じている。土地所有者の権利が強く、法律上の問題がなければ町家の隣にもビルは建つ。日当たりや風通しが悪くなり、建築中に歪みや振動が生じ、町家にとってはよいことは一つもない。もし上記の制度に登録されている建物が、これらの問題から守られるのであれば、登録する人が増えるかもしれない。町家を共有の財産として保存するような制度であれば解体される町家は減るかもしれない。町家がビルに挟まれてポツンなんてことにならないかもしれない。さらには、町家一軒一軒を守るのではなく、祇園や西陣の一角のように、その地域ごと、その町ごと守る制度でなければ意味がないのではないだろうか。町家の隣には町家が軒を連ねていることが目にも環境にも優しいし、その街並みが観光客にも喜ばれると思うのだが。
 しかし胡乱座のように各制度に登録していても、隣のビル建設で歪んだ建物を元に戻すための建設会社との交渉に手は貸してくれないのが現実である。つまりこれらの制度は ”町家を保存してください” というだけであって、保護や保守するための制度ではないということである。
 所有者個々の意識によってでしか町家は守れないということである。

(文:胡乱座あるじA 大橋英文)
(2017.5.1)



(取材後記)
隣地の工事に際しては、着工前に町家の現況調査をしておくと損傷を受けたときにその因果関係を立証し、原状回復の補償を求める重要な根拠となります。同様の事態に直面された場合には、工事担当者または事務局にいつでもご相談ください。

(取材・構成:京町家作事組事務局 森珠恵)