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京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その17

完了検査・一年検査<

内田 康博(作事組事務局)

◎完了検査

I邸完了検査

I邸 指摘事項の確認
 作事組では改修工事が完了すると必ず直接の担当以外の設計担当理事、施工担当理事が1名ずつ検査員となって完了検査を行うこととしています。検査にはお施主さんご家族は勿論、直接の担当の設計・施工担当理事1名ずつのほか、事務局も立ち合うことになっており、その他必要があれば、設計・施工の現場担当者も立ち会い、場合によっては10名近くが検査に参加することになります。
 検査の内容は完成状態で目視できる範囲に限られますが、京町家など伝統建築は柱・梁・床など主要な構造部材が露出し、2階の天井を抜いて屋根裏まで見せる場合などは小屋組の構造材まですべて見えています。そのため、完成状態でもほぼ全体の検査が可能となります。それが伝統建築の維持保全が容易で、長持ちする理由のひとつですが、設計・施工の担当者からすれば手抜きのできない建物、ということになります。
 検査項目をあげると、柱・梁など主要な構造体の状況、屋根や庭からの雨水の排水経路の状況、壁土の状況、床板の状態や畳と下地の具合、建具の開閉状況、水道・電気・ガスなど設備の機能の確認など多岐に渡ります。改修工事を検査する場合、どの範囲が改修部分かを確認する必要があります。壁や柱に少し傷がついていても構造的な問題はなく、既存のままとするケースも多いためで、元あった状態に修復することが主要な仕事となることが多い作事組の改修では、改修部分と既存のままの部分の区別が付きにくいこともあるためです。
 検査前に直接の担当者が念入りにすべてチェックしているはずなので、大きな問題はほぼ見当たりませんが、改修工事中に日々建物に接することで逆に見逃していたことが、検査員の目からはよく見えるということもあります。工事予算の制約のなかでめいっぱい作業して、少しやり残した部分を指摘されることもあります。指摘事項として多いのは建具が動きにくい、塗装漏れ、梁や屋根その他の汚れ、畳の段差や下地の鳴りなどで、早ければ当日、遅くとも翌週には手直しが完了することがほとんどです。コンセントやスイッチの配置、仕上げ材や色の選択、用途に合わせた使い勝手などにも質問が及び、担当者には緊張の時間です。お施主さんからの指摘や質問に別の視点からお答えできるなど、関係者が町家についての理解を深める機会ともなります。現場で話し合われた内容は理事会でも報告され、切磋琢磨のなかで技術を高めていく大切な事業となっています。

◎一年検査
H邸1年検査の様子
H邸1年検査の様子
 また、改修完了後1年経過した時点で、同じ検査員が1年検査を行います。木や土、紙など生きた素材を使う伝統工法の建物は、四季を通じて気温や湿度の変化、通風などの影響をうけ、使われるなかで少しずつ動き、落ち着いて行きます。使いながら不具合などに気づくこともあります。建具の動きが重くなったり、土壁の際の隙間や変色、土間のヒビ割れなども見られることがあります。建具は手直しが可能ですが、壁や土間は必要に応じてやり直させていただくこともあります。生きた素材の必然的な変化は御説明して御理解いただき、手入れの方法などもアドバイスするなど、長くここちよくお使いいただくための話し合いの機会ともなります。建物の変化を見せていただくことは、作り手として学ぶことの多い貴重な時間でもあります。
 1年検査は定例となっていますが、それ以前でも以後でも、不具合や気になる点、手入れの方法など、いつでも直接の担当者が適宜対応させて頂いています。事務局にご連絡いただいても、担当者とともに対応させていただきます。建物が存続する限り、おつきあいは続くものと考えておりますので、ご遠慮なくご連絡下さい。

(2009.5.1)