• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その15

第31回全国町並みゼミ卯之町大会へ参加

末川 協(作事組理事)

  京町家作事組では、母体である京町家再生研究会が全国町並保存連盟の加盟団体でもあり、この三年間、全国町並みゼミへコーディネーターやパネラーとして参加を続けている。現実の改修実践や技術的な論議、地域ごとの伝統構法の再生や継承の課題が、数ある分科会のテーマの一つに定着してきたように感じられる。今年も10月の初旬に行われた第31回卯之町大会の第七分科会にパネラーとして参加させていただけた。1人だけの技術者の参加なのだけれど、全国で町並みの保全や再生に取り組む人たちに、京都での町家再生の取り組みが注目もされ、励みになっていることが、二年前の八女ゼミにもまして感じられ、今回も身の引き締まる思いを頂戴出来た。
 第七分科会では「住まいの再生と町並みの保存」がテーマ、三重の関宿、盛岡、地元南予の取り組みとともに京町家再生の昨今の動向と課題を報告させていただいた。分科会のテーマに即せば、すでに連担した町並みが失われた京都の都心で個別の町家再生に取り組む意義は何なのか、難しいプレゼン課題を突きつけられた訳で、ひとつひとつの地道な町家再生の中で見えてくる暮らしの再生とそれが結果として示される景観の再生、町家の新築の可能性と課題についてお話させていただいた。
 伝建地区を核とした町家再生をその外観や指定枠の内外に広げる関での活動、危機に置かれた個々のストックを市の事業制度の構築と同時に再生する盛岡での活動に加え、地元四国電力の電化住宅促進事業と抱きあわせて128社の設計や工務店が集まり、この2年間で110軒の民家の再生を行った取り組みが報告された。参加要請を頂いた時点では、この動機付けや再生手法が果たして伝統建築の再生にふさわしいのか、ガチンコ討議も辞さぬよう拳を磨いて四国に向かっていた。しかし、原発の電力を売り続けねばならないところからのスタートであるにしろ、南予地区はこの20年間で7万人の人口減少、部外者がとやかく言えるほど生易しい状況にはなく、ストックを活かした定住促進の戦略が必須であることは間違いない。改修工事の表には立たず、地域の技術者と対等に共同し、工務店や設計者、顧客からは一銭もアガリははねず、家電販売促進の広報費とマンパワーだけでの取り組みには「町家再生」の美名の下にうごめく権威付けやお商売気には染まっていない潔さも感じられた。四国電力の担当者たちも要は地元の出身者で地域に入りながら、その生き残りに賭けている。その改修の技術的な内容等には今後も意見交換が続くべきだと思われるし、来年はアウェーにお招きし、京都での楽町楽家での再会をお約束いただけた。

卯之町でのスケッチ(末川協)
 分科会全体は東京で伝統構法の復権に取り組む建築家の松井郁夫氏のコーディネートにより、事例報告の羅列に終わらぬよう、技術論に終始しないよう、声のでかい人間に参加者全員の限られた時間が費やされぬよう、礼をわきまえたワークショップの形式で行われ、会場内の意見を上手に汲み取りながら、本音で明るく進行した。「各パネラーが民家や町家の再生に取り組む理由はなんですか」という若い新鮮な質問で分科会は締めとなった。ここだけは個人的な回答が求められた。「公共建築や文化施設の設計に全力で携ってきた時もあるけれど、技術者として町家について知れば知るほど伝統建築が優れていると感じられること」、「生まれて育ち、預かった伝統構法の建物を、誰がいつ決めたかも知らない基準に左右されず、守りながら次代に託す立場にありたいこと」、「寺社仏閣や文化財、三山と鴨川の眺望だけが残っても、それは今までの京都とは別の姿、少なくとも一市民としてそれは望まないこと」。その場の思い付きは、後から省みても過不足なく、シンプルな自問への機会をいただけたことに感謝している。
 松井氏はゼミの本番前にも京都を訪ねられ、作事組での改修事例や友の会の改修現場の見学会にも参加された。住み手が元気に関わる京町家再生の取り組みにも賛同いただけたし、氏の取り組む現場と山を材料でつなぐ試みをまだ作事組では出来ていないこと、伝統構法の性能評価に対する国レベルでの動向など多くのご教示がいただけた。初日の分科会以降、三日間のゼミの間、仲良くしていただきスケッチブックをもってご一緒することが出来た。これもあらためて紙面をお借りし感謝の意を表したい。
 卯之町では過去二回に京都で行われた全国町家再生交流会でご縁のつながった人たちとも少なからず再会を果たすことが出来た。140万人都市でゲリラのように町家再生に取り組む日常から見れば、地縁社会も、ストックも、コンパクトにまとまった地域、住み手はもとより、行政担当者も、技術者も、地域に入ればみな市民、合意形成がしっかりとつくられつつある各地の取り組みは、うらやましくもあり、刺激にもなり、心強い励みにもなる。(伝統軸組木造のように)柔らかく強く、多種多様な接点で、京都での町家再生が全国の取り組みとつながり続ける大切さが思い返された。

(2009.1.1)