梶山秀一郎(作事組理事長)
京町家通信Vol. 50の当欄で紹介した「町家が守れ建てられるようにする市民会合」がいよいよ4月から始まります。あらためて企画の趣旨を述べ、協力をお願いしたいと思います。 町家が観光や商いあるいは住まいとして脚光を浴び、あたかも町家が守れる環境が整ったかのようにみえる。しかし法律的には既存不適格のままであり、本来は建てることはおろか直すこともできない建物である。さらに建築家にとっては町家を守ることは非創造的であり、かつ退嬰的としか映らない。また、一般市民や広範な町家の住み手にとっては、町家はかつての住まいであり、快適性の追求や災害に対する信頼感において、満足できるものではないし、町家ブームすら特別な人たちの物語でしかない。そして、まちづくりに奔走する方々にとっては、住人の流出による住民自治の危機や、高齢化によるまちの衰退が焦眉のテーマであり、突然、郊外住宅が建ったり、コインパークに変わったりすることを防ぐことに精一杯であって、町家がマンションと等価であるのもやむをえない。 これからの町家を守るための環境改善にとって、昨年9月から施行された景観整備条例に期待する向きもあるかもしれない。しかし、町家が法制度、基準、経済、慣習(生活の習わし、意識)から阻害されたままでは、無国籍ハウスや押し入りマンションに代わって、町家に似て非なるもので、まちが埋めつくされるだけであろう。 作事組は課題のひとつに「保全・再生を普及する」を掲げ、そのために現場見学会、施工体験会、『技と知恵』及び『創意と工夫』の連続講習会、「お訪ね相談」、各種セミナーへの参加など、さまざまな試みをしてきた。しかし、先述したように町家を取りまく状況はなんら変わっていない。むしろ町家ブームによって、町家のしくみにふさわしくない改修や町家を消費する利用が増えていて、功罪相半ばすると嘆息せざるを得ない状態である。 一方町家をなおして守る活動の中で学び、有効性において確信を得たこともある。その一つは対話の役割である。町家をどう直すかの手前に住み手との対話を通して、町家がどんなものであるかを住み手と作り手が確かめ、共感の改修に至る手順である。もう一つは実体験すること、すなわち町家の暮らしを検証し、ともに活動する仲間になる過程である。
町家を守り作る環境改善にとって、自明と言ってよい、広範な市民の理解や支持を得るために、立場を越えて協働に至る手だてはなにか。それは作事組の学習成果である対話であり、この足かけ2年はそのための道程であった。それは意見を一致させる目論見ではなく、まずは立場の違いを確かめ、つぎに、それでも協働する必要を確認する過程であった。 「−市民会合」はその対話の過程を、広範な市民に広げ、準備会会合と同様に、立場の違いを越えて共通する課題と解決の方法を、社会や行政に示そうとするものである。町家がその歴史・風土的、文化的あるいは実用的価値にふさわしい、正当な評価と扱いを受けるためにはどうしたらよいか。真の理解は町家に暮らし、町家を五感で体験して会得するしかないが、まずはとば口である、正当な理解、それも立場を越えて共通する理解を築く必要があり、「−市民会合」はみんなでそのとば口に立とうとする試みである。 広範な市民ということから、市民会合に参加してほしい方は、町家に関心のある方で、京町家ネットの外側におられる方々です。みなさんには今後仲間として協働していける方々への呼びかけをお願いします。 (2008.3.1) |