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京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その8

次代作事組検討委員会・その2

末川 協(作事組理事)

 前回の通信でご報告した次代作事組検討委員会では、京町家ネット内部での作事組の活動評価の聞き取りのため8月には京町家友の会、9月には京町家情報センターの事務局やコアメンバーと意見交換を行いました。

●町家の住まい手のネットワーク
 京町家友の会との話し合いでは、作事組が改修実践を行う中でご縁のかなった施主や住まい手を、より多くの町家で暮らす人たち、町家に思いを寄せる人たちの輪に加わってもらう方策が話されました。作事組の改修物件の施主を一年間、自動的に友の会の会員に加えていただくこと、作事組の会員が、町家の住まい手に向けて町家の手入れや傷みの見分け方についての勉強会を行うこと、楽町楽家で好評の町家見学会への施主の紹介を積極的に行うことが作事組への要望として上がりました。

●作事組の活動への評価
 情報センターとの話し合いでは、作事組での町家改修がトレンドセッターを担い、熱心なファンを得る一方、組織としての作事組とその会員が行う仕事の流れが理解されにくいこと、10年間という一旦の作事組の活動期間設定がアフターケアの心配を呼ぶこと、時に構造改修を必須とする原理主義的な町家再生の印象が、工事金額や敷居の高さのイメージにつながること等、作事組の活動の外からの見え方にも忌憚ない意見を頂きました。

●流通と改修の接点での課題
 さらに情報センターとは町家の再生実践での互いの専門分野の接点での課題、互いの活動への要望、共通の課題と協働の可能性が話し合われました。待ったなしの町家の再生には流通が先、改修が先、その同時も必要のいずれの状況もあります。流通に伴う改修では住居用の家賃設定の場合、貸主の改修工事費に一般的な限界があり、一方商業利用となれば期間が無いところに、店舗設計や店舗改装が入らざるを得ない状況もあります。町家の将来性をオーナーへ説得する際には、今日の町家の経済的な価値や投資の効率性での理解を求めるとともに、技術的に町家を長持ちさせる改修の説得が必要な場合も多いと思われます。一般的なオーナー工事の範囲である屋根、構造、設備の改修について、どこまで出来るか、どこまでやらねばならないか、経済的、技術的な状況が個別の町家にはあり、同時に事故に対する貸主の責任にも理解が必要と提言がありました。他方、安易に高価な家賃設定が借り手の選定や改修内容に制約を設ける状況もあり、町家の職住一致の原則を越えた極端な商業転用がその町家の将来を奪う可能性、その後の固定資産税を上げる可能性もオーナーは知る必要があると指摘がありました。

●情報センターから作事組への要望
 作事組が閉じた技術者集団ではなく、京町家ネットや京都全体の町家の改修への責任を持つ部分で、町家の改修に向けた「禁じ手集」をまとめることへの要望がありました。町家に必要な改修とやってもよい改修、そしてやってはいけない改修があるならば、その最後に当たる部分です。工事中の改修現場への見学会の要望も頂きました。

●構造改修に対して
 町家の構造改修の考え方、地震に対するオーナーの不安も流通と改修の共通の課題として挙げられました。地震に対する町家の性能が限界耐力計算で担保されるのか、それをはたして簡易に行えるのか、ほんの少し前まで在来工法と同じ壁量換算で町家の耐震性能が「無料」で「簡易」に「診断」されていた責任はどこに置き忘れられたのか、補強金物は町家の構造の仕口に役に立つのか、それらをまったく考えない改修が今も行われていること、同じ京都の中でも町家の構造改修の選択肢は多様に分かれています。傷んでいる伝統構法を伝統構法で愚直に直す作事組のスタンスを含め、構造改修の方向をオーナー自身の判断で決めるフェアな選択肢を提示する責任が求められています。

●法的な課題
 町家が既存不適格建築である状況も流通と共通の課題です。伝統的な都市住宅に不可欠なケラバの越境、建蔽率の超過、用途変更面積と申請の要否の相関、長屋や路地奥での再建築の困難さなど、表層の町家ブームとは裏腹に責任主体が不明確なまま全国的には規制厳格化の逆風があります。コンプライアンスと直結するこれらの課題には地場の金融機関へ主体的な協力を求める必要も挙げられました。

●協働の可能性
 オーナーだけでは維持できない町家を守っていく仕組みについての議論もありました。何処で誰が資金調達し、事業の受け皿となるかの課題はすこし先に置き、ストックだけに向かう技術的対応とフローで預かる手法はレベルを別にして、承諾料や地代の上乗せは求めないオーナーを探し、サブリースで改修実践を行う可能性が提案されました。二宮金次郎よろしく、困っているところで、維持できるところで、儲かったところで、それぞれが助け合い、還元できる乗り合い方式での実践が問いかけられました。


(2007.11.1)