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京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その6

京町家棟梁塾 2

松尾 優子(作事組事務局)

 京町家通信49号でご紹介したとおり、昨年度、大工5人、瓦職2人、板金1人、設計1人、庭師1人(当時訓練校で勉強中、今年度より晴れて大工に転向)の計10人の塾生でスタートした京町家棟梁塾も、この4月からいよいよ2年次に入り、塾生ともども講師・スタッフも気持ちを新たにしています。
 塾を始める前は、どんな人らが来はるやろ? 講師は3時間もしゃべってくれはるやろか? 塾そのものをうまいことまわしていけるんやろか?……心配は尽きませんでした。

屏風の紙蝶番の仕組みに興奮気味の塾生

すっかり片付けても時間が許す限り質問がつづく

休憩時間もハシリニワで講義が続く

常任講師の講義に食いつく
 塾生大半が30代の働き盛りで家庭を持っています。それにもかかわらず自腹を切って学ぼうというだけあって、熱意と根性はぴか一です。大の男がこぞって目を輝かしているのはなんとも奇妙な光景ですが、忙しい中、時間をやりくりして毎回嬉々として通ってくるのを見ると、なんとも段取り方冥利に尽きます。常任講師陣は当初、忙しさのあまり「全部の講義に出なあかん?」と聞いていたのですが、塾生のあまりある意欲に後押しされてか、やはり疲れ知らずで講義に臨んでいます。
 各職の講義でお世話になる講師の多くは、作事組の会員です。大概の方は「ワシら聞かれたらしゃべるけど、話なんかできひん」と言われるので、下打ち合わせと称してもう一人の段取り方でもある副塾長とお店まで押しかけて、棟梁塾の目的や塾生のことを説明して、どんなことを話してもらえるか探りを入れます。まぁこれの楽しいこと。簡単に済ませようとしても、2時間ぐらいすぐに経ってしまいます。皆さん口をそろえて、難しい仕事ほど「楽しい」とか「やりがいがある」と言われます。どの講師からも仕事に対する自信と誇りを感じて、知識の引き出しの多さに驚き、奥深さに感動し、その役得に大満足して打合せを終えます。
 事務方が聞いて興味深い話しが、現場で日々さまざまな問題に直面している塾生にとって面白くないわけがなく、講師の心配をよそに、塾生からどんどん飛び出す質問で話も広がって、講義当日の3時間はあっという間に過ぎます。休憩時間でさえも、喫煙場所であるハシリニワで、煙草を吸う人も、吸わない人も集まって、そのスタイルを変えただけの気楽な講義が続きます。そして、終わって片づけが済んでもなお塾生はハシリニワで、そこを追い出されると事務局の外で名残惜しそうです。驚いたことに帰る途中、道端の明るいところでノートを広げて、他の塾生に教えてもらっている人に出くわすことも何度となくありました。そういう努力もあってか、塾生が持ち回りで担当する講義録の内容が、この1年で格段に充実しています。
 棟梁塾では、町家の構造や特性、各職方の仕事はもちろんですが、棟梁になるための素養なども身に着けてほしいと考えています。塾がスタートしてすぐの頃に、靴を乱暴に脱いでいる人がいたので、チクリと注意をしたことがあるのですが、以来、彼が通ったところはいつも他の人の靴までがビシッと揃っています。
 棟梁になるには礼儀、お行儀、服装など心配なところはまだまだあるのですが、口うるさい事務局をこれまた口悪くおちょくりながらも、いろんな場面で気遣い、気配りをしてくれているのがよくわかります。私たちは、志が高くこんなにも前向きな姿勢で意欲を持った彼らが、5年後10年後、町家の改修をどんどん手がけていく日を楽しみにしていると同時に、講義や段取りにおいて、彼らから頑張らされる日々が続きます。
 今年は塾生からの要望である、町家の実測や改修実践に取り組めたらと、目下段取りの真っ最中です。次に棟梁塾を記事にするときには、このあたりのご報告ができたらと思います。乞うご期待!

(2007.7.1)