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京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その2

京町家棟梁塾の活動──初年度前期を終えて

末川 協(作事組理事)

 改修の実践を通じて町家の保全・再生の普及に取組む京町家作事組では、今年の春より京町家再生研究会との共催で京町家棟梁塾を開いています。
 二年間40回の座学と20回の実習、あわせて240時間の講義予定を組み、総論では全体としての町家の理解に努めながら、各論では町家に係わる多くの職方との協働を学び、特論では伝統構法の出来るだけ深い技術を知るところまで、年次ごとの到達点をにらみながらカリキュラムを実行しています。次代の京町家を担う若手職方の育成を目指し、現代の建築生産の中で失われている「ものつくりの心得」「他職との連携」「社会の中での仕事の位置づけ」に気づき、それらを取り戻すことを目標としています。
 1000年以上の歳月をかけて練り上げられた町家の成り立ちや町家にまつわる知恵や工夫のすべて、町家を支える伝統技術の全体を、限られた講義の時間内で学びとおせることはありえず、また誰かが伝えられることでもなく、実務を続ける限り、誠実に技術に向かい、学び続ける姿勢こそを京町家棟梁塾で確認し継承していくものだと考えています。この点で、塾生と講師の双方向の意見交換は不可欠で、かつ実際の講義での塾生の食いつきの良さには恐れ入り、それに受け答える作事組各職の会員講師の話には、日常の町家改修現場だけでは聞くことが出来ない奥行きや課題提起が広がります。この半年間、多くの皆様のご協力のおかげで、良いスタートが切れていることに感謝申し上げます。
 当初の目論見では年明けすぐの若手の職方の塾生募集を想定していましたが、実際には、さらにキャリアを積んだ応募者が多く、若手の親方や家業の跡継ぎ候補の塾生も多くなりました。このことは結果的に講義の質のレベルアップにつながっています。応募数も恐れていたほど多くは無く、しかし、問題意識や向上心、批判精神と広い心根を持った塾生がそろい、結果的に集まるべく集まった人材なのだと考えています。それぞれに忙しい中、身銭と家庭サービスの時間を割いて参加する現役の職方の集まりには、文化教室とは別の気さくで凛とした雰囲気があります。

小舞掻の実習
畳の見学
北山杉の母樹を訪ねる
座学の様子
壁土を練る
銘木の見学
町家の見学


 また、塾生の各々が本当にユニークです!弁当屋、鍋売り、野球選手、お百姓、諸国放浪者などのさまざまなキャリアを持つ大工、瓦職、板金職、造園職、設計士が集まり、悩めるキャプテン、天然ぼけ突っ込み、おしゃれな好青年(左官実習くらいは汚れて良い格好で!)、下ネタ得意(事務局ではすこし控えなさい!)、いつもカメラ目線など、この半年間で、各人の愉快な個性もしっかり見えてきました。そして共通点は皆、お酒と歌が大好きです!市民活動の成果はそこで飲まれた酒の量に比例すると言われるとおり、ここは段取り方も望外の喜びです。望むらくは左官と女性職方の参加でしょうか。各人の専門外の講義内容には、塾生同士が自分たちで集まる場を設け、理解を補い合っています。この輪が京町家棟梁塾の講義を越えてもつながっていくことは間違いないのだろうと見受けられます。
 9月に行われた一年目の前期の反省会では、やはり専門性の強い講義の内容の理解に差があること、日常の仕事では出会えない伝統構法の現場での実習が望まれていることが塾生から上がりました。学んだ内容を振り返ることは塾生自身の課題ですし、用意したカリキュラムに加え、京町家作事組での現場が許す限り、見学や実習を盛り込んでいく必要があると考えています。ここでも皆様のご理解とご協力が必要となり、更なる応援をお願い申し上げます。改めて座学や実習の様子を報告いたしますし、京町家棟梁塾の活動を続け広げるため、多くのご意見やご指導をいただきますようお願い申し上げます。


(2006.11.1)