◎3月の報告
◎4月の予定
[京都造形芸術大学木造伝統工法国際デザインワークショップ 見学会]
このプログラムは大学における国際交流推進の機運がきっかけとなり、建築を学ぶ海外と日本の学生が共通のテーマとしてとりくむべき対象として普段触れる機会の少ない木造伝統工法が選ばれた。そして、社寺仏閣も重要ではあるが、日々の実用に供する生活の器である町家が軸に据えられた。そこで、京都において町家再生の先駆である京町家再生研究会及び京町家作事組のメンバーに打診し、多大な協力を得ることで中身の濃いワークショップが実現された。特に設計担当の木下理事長、大工職の荒木棟梁(副理事長)、左官の萩野理事にはひとかたならぬご協力をいただき、伝統構法の仕口継手を実感するための木工実習、伝統の土壁を体感するための木舞掻き・荒壁付け実習を一つの柱とし、もうひとつの柱としてのレクチャーでは、京町家の基本構成とデザインについて、ドイツと日本の建築家による伝統木造及びそれを踏まえた現代の木造建築の実践について、日本の木造伝統構法の実物大振動台実験の結果を踏まえた特性の解明や解析の試みについてのお話の他、荒木棟梁からは京都で受け継がれてきた職人の技と知恵の奥義に触れるお話をいただいた。最終日には全体のまとめとして公開シンポジウム「日本の伝統木造建築の可能性」を開催し、パネリストには荒木棟梁、木下理事長の他、伝統的木構造の研究者の立場から鈴木祥之先生(立命館大学教授)、ドイツ人建築家としてインゲマール・フォーレンヴァイダー教授をお招きし、日本の木造伝統構法について京町家を軸に多角的な側面から議論を進めた。全体を通じ、京都において伝統建築に向き合う実践について、幅広く触れることができる貴重な機会となった。 (作事組理事 内田康博) [丹波篠山研修ツアー]
現地に着き最初に案内していただいたのは、まちづくりのキーパーソンの一人で、町家を直して活用するNPO町なみ屋なみ研究所(町屋研)の才本さんの建築事務所であった。大正末に郵便局の予定で建てられた建物を事務所兼セカンドハウスとして改修したものであり、それを見学させていただいた後、同じく町屋研の酒井吉一さんともう一つのまちづくり機関で、ガイドやツアー企画を担う(一社)ROOTの谷垣女史の案内で河原町に向かう。道々出会う住民の方々が彼らに声をかけ、活動が地域に入り込んでいることをうかがわせる。河原町では先ず町屋研で改修中の町家を見学してから、主に妻入りの町家で構成され、平入の静的な京都とは一味違う動的な町並みを眺め、雛飾りイベントで開放している店などを見学しながら通り抜けた。町家の構造は4.5寸以上の柱と大きな差鴨居が印象的で、姫路と近似する堅牢さである。そこから篠山城の西側に位置し、武家屋敷が残る御徒町に向かった。街中にありながら茅葺の、農家と見まごう屋敷が点々と残る様は独特な景観である。 伝建地区外の改修中の町家を見学して、次に向かったのは、篠山のもう一つの伝建地区である福住である―複数の伝建地区を有するのは京都と篠山のみ―。農家を購入して住居とするために改修中の瓦葺の建物と、西京街道沿いにあり休憩所や案内所などの利用を考えている、茅葺民家を見学した。その後地区内にある住吉神社の境内で酒井さんと意見交換を行った。 今回はお話が伺えなかったが、篠山にはもう一つのまちづくり機関の(一社)ノオトがあり、定住促進、地域産業創生、民家の再生活用などに取り組む。それと町屋研、ROOTの3機関が棲み分けながらも連携し、住民目線の中間支援を標榜して活動していて、町家の借上げサブリース、地域が経営する民家の体験宿泊、町家活用の運営などに取り組む。さらに数件の町家を一つの簡易宿所に見立て一括運営する試みを進め、町家の買上げ・改修転売、市民ファンドの設立などを構想する。これらには作事組の守備範囲を超えるものもあるが、町家を直して守っていくための試みとして大変参考になる。 一方、町屋研の設立趣旨が喫緊課題としての、町家をつぶさず屋なみを守る、活用動機促進のために改修費を抑える(改修ボランティア)、であったため、町家改修設計や施工の技術の再生と習得が今後の課題と見受けられた。 京都と篠山は町の規模、特性や課題において違いはあると思うが、町家の保全再生の方法や技について、お互い学びあうものを持っているので、今後も切磋琢磨する仲間としての交流を続けたいと思った。
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