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『創意と工夫』タテ、ヨコ、ナナメ読み・第6回

ひとともの、ひととひとの豊かな関係の再生を 
梶山秀一郎(作事組理事長)


図1 永年の手入れと祈りがしみ込んだ大黒柱
人と住まいの交感が深遠な気配を漂わせる
 イチローが地元の小学校を訪れ、子どもたちに「自分を大切にしてください・・・人も大切にできます」と呼びかけた。
 機能主義とはそもそも、あるかないかも解らない実体ではなく、関係性を大切にしようという姿勢の表明であった。いつの間に、使い捨ての方便になったのか。
 蔵にしまい込んだ道具には購入したあるいは造った日付と当主の名前が書いてある。ものを大切にする心と、子孫へのアピールであろう。町家も同様で、ときに暮らす者は暮らし続けてきた先祖(先達)と暮らし続けていく子孫(次代)のはざまで、一時使わせていただくという気持ちで、愛情を注ぎ手をかけてきた。その人と住まいの交感の堆積が、体感する者に気配としか例えようのない豊かさを感じさせるのだろう。ものを大切にするということは、それを使う自分を大切にすることであり、自分を大切にすることは人も大切にできるということである。またものを介してそれを造った者ともつながる。人ともの、人と人の豊かな関係性を蔵から引っ張り出さなければいけない。
 
人にしろものにしろ、よりよい関係を保つための心得は、相手がしてほしいことをして、してほしくないことはしないことである。いうまでもないことであるが、ちゃんとこれをするのは、口で言うほどたやすいことではない−これもいうまでもないことだが−。さらに蛇足を重ねるが、相手がどうこうというより、先ずは自分が何をしてほしいかあるいはしてほしくないかをイメージすることが近道であり、その順番はされたくないことが先であろう。町家はこんな分かり切ったつきあい方を、この40数年あるいは80数年されてこなかった、いやむしろされたくないことばかりされてきた。
 高温多湿のこの地で木や土や紙の体は、湿気が万病の元であるにもかかわらず、八方を塞がれ、体や骨を覆われ、湿気を充満される。コンクリートや煉瓦を押しつけられ、じめじめするのもたまらない。雨漏りは癌と同じで早期発見早期治療が大切なのに、ほうっておかれる。元もと大地に返りたがる足元が腐りかけているに、畳は30年も上げずじまいで誰も気づいてくれない。適度な乾燥が美容に一番なのに、冬場に暖房で湿気て夏場に冷房でからから。そんな仕打ちを受け続けた結果の満身創痍の状態をけなされる、ほめられてこそきれいになれるのに。

図2 破れたままの焼き杉
100年近く経つのだろう。放置されているものの壁は傷んでおらず、けなげに役目を果たしている。


図3 樋の不始末で腐った足元
ぼつぼつ限界なのに気づいてくれない。
 この本(『町家再生の創意と工夫』)をまとめるとき、編集期間が短いこともあり、参考写真を集めるのに苦労した。ところが4章の手入れが悪く、重大な故障に至った事例については、集まりすぎて選ぶのに苦労したほどであった。出入り関係の消失、別な価値観の住まいの盛行、業としての家を継承する慣習の衰退と、理由はいろいろあるであろうが、つまるところ町家という住まいに愛着がもてないのである。
 終章は住んでいる町家を、あるいは改修後の町家を、構造上機能上の重大な故障に繋がらないように守っていくために、町家が示す徴候(しるし)の見分け方、その原因と手入れの仕方を示したものである。職方が読んで理解してもらい、住み手にアドバイスできるようにということでまとめたが、今住んでいる町家と対照させながら読めば、住み手の方でも解ってもらえると思う。単なるマニュアルとしてではなく、町家に愛着関係をもち、町家のつぶやきや訴えが聞けるようになるための手がかりにしてほしいと思う。
 6回に亘ってぐちともざれともつかないことを言ってきたが、要は「町家は懐かしいかつての住まいではなく、未だに最良・最適の住まいである」という了解を得て「町家と町の担い手が甦り、町家と暮らしが再生する」結果に至る過程で、「了解の機縁は愛着であり、縁起は各々の担い手であるという自覚と、住み手、作り手、地域、市民との協働が生みだす」ということに気づくことであって、それが本書の主題である。

 さて、元もと評論や言説でなにかが変わるとは思っていないにも関わらず、興にのりマイクを握りすぎたようです。次回からは、実践で世直しを標榜する作事組が、どんなメニューと道筋で使命を達成しようとしているのかを、各担当者が紹介するページにしたいと思います。たたかれて成長する職方の集まりの作事組です。忌憚のないご意見、ご批判をお寄せ下さい。


(2006.7.1)
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