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京町家作事組
京町家の技術 その三

地震と瓦
光本大助(京町家作事組会員・光本瓦店) 


 阪神大震災で木造家屋がたくさん倒れ、瓦が重いから家が倒れる、という話がでてきました。
 もともと日本の建築は木造で、しかも京都の町家は比較的細い木を使っています。そこから特有の優美さがかもし出されていますが、細い木で建物を保つための方法というのが、仕口という木と木を組み合わせて丈夫にするやりかたです。コンクリートとは違って切り貼りするわけにはいきませんし、基本的には木と木を組んで建物を建て、その仕口を締めるために、瓦を土葺きにした屋根の重さが必要だとされてきました。

 私自身も神戸に行って、倒壊した建物を随分見ましたが、瓦が落ちることによって倒れずもった家と、瓦が落ちずに倒れてしまった家があったように思います。瓦は重く、落ちてきたら危ないこともあって、今までは、土葺きできっちりととめるという工法をとってきました。

 阪神大震災は、今後の瓦業界にとって死活問題となるような大災害でした。そこで、瓦組合でも耐震工法研究の必要性から振動台というものをつくり、実験をしました。当初、指導してくださる方もなく、勝手につくったものですから不安になって、京都大学の防災研究所に相談しましたところ、見に来て下さって加速度計を付けていただきました。そして、地上の2倍以上の横揺れが起こる屋根の上の振動が再現できている、という御墨つきをいただきました。普通の振動実験では土葺きしてすぐに行うのですが、私たちは土や漆喰もきちんと乾かし、通常の町場にある家屋と同じ状態にして実験しました。

 この実験から、棟に芯材が入っていれば倒れない、という結果を得ております。がちがちにすべてを緊結すると、ある一定の限度を越えるとばたんと倒れてしまいます。そうではなく、ゆらゆら動いても倒れないという日本の古来からの建築方法が正しいのではないかと実感しています。

 もっとも、昔と比べて現在の瓦は固く、薄くなっていますし、土葺きから桟葺きになって、土を大量に屋根に載せるようなことはありませんから、瓦を葺きかえると前のものよりは絶対に軽くなります。ですから、聞かれたときには「葺きかえると○kg軽くなりますよ」とアドバイスをするようにはしています。

 やはり上が軽いほうが、地震には強い。それは事実だと思います。だからといって、瓦をトタン板に変えればいいのかというとそうではありません。瓦を載せるのと載せないのでは、建物の熱量の吸収が3倍くらい違うと言われています。暑い夏には太陽光線を遮って屋内を涼しく保ち、冬は内部の熱を逃がさない。瓦は、移りゆく四季を快適に過すために、長い間日本の風土に合わせて進化してきた材料なのです。