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はじめに京町家再生研究会京町家作事組京町家友の会京町家情報センター
改修手順の作法・第9回

改修作法〔その5〕技術編2
梶山秀一郎(作事組理事長)

2)町家の防災性を尊重する

2階ナカの間に窓を開け(左上部)、天窓からの光を呼び込む
 自然災害に対する備えは、幾多の災害を乗り越える歩みのなかで、町家の構えに織り込まれている。改修に当たっては、雨、風、地震に対する町家の構えをよく理解して、構えに沿った工法を採用しなければいけない。屋根を過度に軽い材料で葺き変えたり、2階に過大な重量物を置くことは避けなければいけない。
 自然災害から人とものを守ってきたのは、町家の構えだけではなく、個々の用心と町コミュニティの働きの割合が高い。どのような構法であっても、自然災害に対して万全はあり得ない。警察、消防などの制度に依存し、備えをおろそかにしたり、地域防災を置き去りにすることがいかに危険であるかは、95年の兵庫県南部地震や04年の新潟県中部地震の被害状況が示している。
 防犯、防火についても同様である。特に防火(主に延焼)については京町家の構えは無防備といえる。つまり、個々の用心や地域防災体制とセットでないと、町家という形式は成立しないし、人とものも守れない。

3)自然に沿った快適環境を作る

町家の光と影を愉しむ
 風、光、緑を巧みに取り入れ、五感を愉しませるのが町家の快適環境を作る作法である。
 夏場の風通しを守る風は気化熱を促進し梢を揺らし涼を運ぶ。風の通り道であるトオリニワが広い場合、夏場の食堂や応接などの居室利用は工夫されて良い。逆にやっかいな冬場の風に対して、ほとんどの町家が格子の内側や縁先の雨戸の内側に、ガラス戸をはめてしまっていて、夏場の風通しを阻害している。
 これでは町家に相応しい解決策とは言えない。もっとも風通しが命の町家とはいうものの、冬場は空気が乾燥しているため、一定の気密化を図っても支障がない。例えば、冬場はオモテや縁側の雨戸に代えて、ポリカボネート板などで軽量化をした框戸を入れるなどの、既存のつくりを活用する工夫が望まれる。

光と影を愉しみながら暗さを改善
 近代的快適性を称揚する立場から、批判の筆頭にあげられたのが町家の暗さである。平安京の地割りと押しくらまんじゅうをして、限界まで押さえ込んで間口を分け合った結果であり、仕方ないともいえる。しかし、むしろ厳しい制約のなかで、ゲンカンニワ、中庭、前栽を配して光を取り入れ、格子や簾で光量を調整する知恵と創意・工夫を評価すべきであり、光と影を愉しむ精神的ゆとりが求められる。とはいうものの、さらなる工夫はあって良い。必要以上の熱射と結露に配慮し、かつ雨漏りの心配のないガラス瓦による2階ナカの間への天窓採光。火を焚くことがなくなり、防火や煙の進入の心配がなくなった、火袋に向けて窓を開け−夏場の火袋に溜まった熱気を室に呼び込まない工夫は必要−、間接的に採光を図るなどである。

庭とニワ

町家の庭は大自然の覗き穴
 緑と水は虫を呼び、虫は小鳥を招き、町なかに自然との共生空間を現出する。さらに森を介して宇宙につながる小宇宙を提供する。
 前栽の植栽は広さに応じたものにする。新たに作る場合は、樹木が定着し成長を始める5年先の姿を想定し、植えすぎないようにする。植栽は植えたら終わりではなく、特に町家の庭は狭いため、一定の大きさで姿形を整え、そのまま維持し続けることになり、継続的な手入れが必要である。手入れも考えて適切な規模にすることが大切である。池泉は維持が難しく、水は手水(ちょうず)にとどめた方がよい。今見られる町家の庭の景石や踏み石あるいは灯籠や手水は、庭のスケールをはみ出して大きいことが多い。できるだけ押さえ気味にした方がよい。また排水は配管に頼ると、トラブルが多く、自然浸透と吸い込みを基本にする。
 中庭は常緑で大きくならず、日照が不足しても育つ草木と下草程度。ゲンカンニワは手入れの便宜上鉢植え程度が良い。オモテはロージ奥であれば似合うが通りには似合わない。
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