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改修手順の作法・第6回

改修作法〔その2〕
梶山秀一郎(作事組理事長)

2.骨組みや屋根、外壁などの暮らしや建物を守るための改修を優先する
○内装などのいつでもできるところは後回しにする

腐朽した井戸引き
過去の改修で腐朽した腰部に吸水性の高い煉瓦を積み、かつ同様に水を吸うモルタルを塗り、箱形流し台を押し当て、仕上げ材で壁を覆ってあったため腐朽して役目を為さなくなった井戸引き。上記のどれもが単独で腐朽の原因になりうる。 

台所の真ん中にでんと座る流し台
これなら問題も起きようがない。

壁の腰貼り
壁の部分補修は極めて困難で、わずかな傷の補修でも木部に囲われた一面を塗り替えることになる─往々にして色柄や仕上がり感がちぐはぐになって一室の塗り替えになる─。腰貼りをしておけばコンセントの取り替えがあっても和紙を張り替えれば済む。
 町家は借家でも6人工/坪(建物の等級を示す大工人数をベースにした目安─人工数が上がれば材料の等級も手の混み具合も上がる)ぐらいは掛かっていて、現代の設計を伴う注文住宅の人工数に相当する−今は機械化されて効率化されているものの当時の職人は手慣れていることもあって手が早かったために人工数はほとんど変わらない−。改修とはいえ町家の質に見合った工事をすればかなりの費用を伴う。また今は当時より手間が材料に比べ相対的に高くなっている。また今は町家に使われていた材料が一般に流通していないため、一層のコスト高につながる。例えば昭和30年代までは便所や押入の天井も棹縁天井であったが、今はそういう値段が安い杉板は手に入らないためやむを得ず値段の高い銘木を使わざるを得ない。
 予算が限られたなかで実施することが多い改修にあたっては何もかも元通りとはいかないことが多く、工事項目を取捨選択する必要が生ずる。その際の優先順位は安全や保全性を保証する骨組みや屋根、外壁などの暮らしや建物を守るための改修である。それらをないがしろにし、内装や家具あるいは設備に費用をかけることは本末転倒で町家の消費財化につながり、資産価値の保全にもならない。

3.既存の材料や部品、あるいは家具等をできるだけ生かして使うようにする
 使い回しが町家のモットーであり、ものを大切にするのが昭和30年代までの日本人の美質であった。24人工/坪というような贅を尽くした町家でも床板をめくると足固め(敷居や框の受け材)や大引に欠き込みのあるどこかの柱やモヤが使われているし、小屋裏には敷居の天井吊り木受けが見つかる。また基準寸法が室の内法寸法であり鴨居の高さが一定であるため、畳と建具は他の町家に転用ができるし、床・棚・書院のしつらえもそのまま移せる。もっといえば敷地の間口さえ合えばそっくりそのまま移すことだって可能である。それはむしろ当然で、作る段階でそのようにプログラムされているからである。
 むろん手間の掛かる舞良戸(横桟が密に入った板戸)、材料を精選し手の込んだ障子、意匠を凝らした欄間などが手頃な値段では手に入らないということもあるが、仮に今手に入れることが可能であっても残っているもので使えるものは使うべきであり、多少の傷はあったにしても今作る新品よりはずっと空間的にも機能的にもぴったりするはずである。

4.後々の修理や日頃の点検がし易いようにする
 近・現代建築に一番欠落していた想像力がこれである。ガウディのサグラダ・ファミリアが永遠の建築になるのは構想が壮大でプログラムが複雑なだけではなくシジュホスの神話のごとく次から次に修理が追いかけてくるからである。
 近・現代的想像力からの決別を計る過渡期にある今、改修にあたっての要望も過去のそれに引きずられるのもやむを得ない。しかしそここそが想像力を発揮するところである。畳に替えてフローリングを張ってしまえば緩んだ床組の修理のためにフローリングをだめにしてめくらなければいけない。システムキッチンを据え付けてしまえば裏の点検はできず、木部が腐朽するかしないかは神頼みである。不細工だからといって配線や配管を壁に埋め込めば寿命が来たときに露出になるだけである。床暖房は快適かも知れないが床の寿命を設備の寿命の20年に縮めてしまう。
 町家の想像力は腐朽しやすいハシリ(流し)の裏の腰部と上部を分ける井戸引に、腐朽したら槽だけ取り替え、足元は解放で覗けば柱が見えるハシリに、傷みやすい壁裾の腰張りに、そして新手のガス配管や電線の2線引きを外部的なトオリニワに露出させている─お世辞にも美しいとは言えないにしても─ことなどに顕れている。改修にあたって学ぶべきは町家の想像力であると思う。
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