改修手順の作法・第4回 設計期 梶山秀一郎(作事組理事長)
§はじめに
§事前の調査が大事
作事組も5年経った今でこそ“なんじゃこれは”と言うことは少なくなったが、これは失敗の積み重ねの賜である。何でそんなことになるかと言えば町家が見向きをされなかった間の改修作法にある。町家は点検や手入れがし易いようにつくられているが、その点では今のつくり方は“今が良ければ後は野となれ山となれ”であり、床、壁、天井に合板類が張り廻してあって、柱や梁の状態が見られない、オモテの木部は大方ペンキが塗られているという状態で、それらをめくったり剥がすと柱や梁がシロアリにやられていて、取り替えや根継ぎが必要になる。あるいは何ともなく見えた木部はペンキ薄皮一枚で中は跡形もないということになっていたりする。直し手の一方的な言い分ではたとえ崩れかかっていて、まさに自然に帰ろうとしている状態でも放置されてきた方が確認もでき手入れもし易くてありがたいと言うことになる。まさか全部めくってしまってから“こんな状態でこれだけかかるがどうしましょうか”というわけには行かないので調査時に復旧が可能な範囲で部分的にめくってみて経験則で全体の状態を推し量ることになる。 事前調査は設計者や大工だけではなく各職参加で行い、施主も立ち会って確認することが大切である。 §設計作法 そもそも町家は間取りに番付(通り符号)を記し屋根のかけ方や床やタナなどの装置を板に描き込んだ板図と、平面割りと高さ割りを角棒に刻んだ尺杖だけで建てられてきた。今、見積りや図面で仕事をする機会が多くなった職人の便宜のために必要とは言え、設計図は必要最小限にとどめるべきである。理由のひとつは改修の場合は現物がそこにあるからであり、ふたつには現場で設計図が制度の役割をしてしまって、職方の自律的なもの作りの情熱をそいでしまったり、創意・工夫を妨げることがないようにするためである。
設計図に求められるのは施主と設計者の想いに食い違いがないことを確認できること、見積りの落ちがないようにすること、そして職方に住み手や設計者の想いが伝わることである。具体的には平面図に仕上げなどを書き込んだものと揚舞いや根継ぎなどの施工項目と材種などを記した仕様書及び設備機器類の位置、数、仕様を記したものは不可欠である。それ以外はできあがりイメージを伝えられるパース─CGパースはできあがりを的確に伝えられるがイメージを固定化するため手描きが良いかも知れない─などであるが、場合によってはできあがりイメージは口頭でも良い。 |
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