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はじめに京町家再生研究会京町家作事組京町家友の会京町家情報センター
改修手順の作法・第2回

相談・学習期
梶山秀一郎(作事組理事長)

§はじめに

町家を体験する
改修が完成した町家だけではなく、改修前、改修中の町家も見学するのがよい
 いよいよ町家の改修に向けての第一歩である。しかしいかに町家の良さを理解し、利用方法の目途を立てたにしても迷いは残る。耐震性ひとつを取ってみても兵庫南部地震の被災の映像は生々しく脳裏に焼き付いている。しかも報道は主に在来工法の木造住宅が倒壊したと言っていて、重い瓦屋根が倒壊の原因としている。京都市も戦前木造が危ないとして、耐震診断を実施して耐震補強を勧めている。また研究者をはじめとする専門家の意見もまちまちである。判断基準をもたない住み手が不安を持つのは当然である。ましてや町家の住体験がない住み手であれば高気密、高断熱、個室型、快適住環境から暑い、寒い、暗い、狭い、プライバシーがないというひっくり返った住環境に移り住むわけで、迷いがあって当たり前である。
 一方設計者をはじめとする専門家も今まで習い覚えてきたのは強く、硬く、美しく、効率的で合理的な住まいである。いかに自分が作ってきたものより町家が優れていることを知ったとしても現代住宅のようには理論に乗っからずうまく説明ができない。また自らものを作ってこなかった設計者は現場手作りの町家に直面して存在の足場さえ見失うおそれがある。
 すなわち改修のスタートである相談・学習期は、町家を真ん中において住み手と作り手が対話をしながら町家を読み解き、それぞれの町家に対する立場と共通基盤を模索するプロセスである。
 
§町家を見て歩く

現代の住まいも見学する
町家のつくりや暮らしと比較するため今の住まいを見学するのもよい
 百聞は一見に如かず、ましてや建築は、絵画や彫刻とは違い規模が大きいため客体化しにくく、写真や図面から感得できるものはごくわずかで、体験あるいは体感でしか理解できないものである。その際の姿勢は固定観念や風評あるいは法制度を脱ぎ捨て素っ裸で町家と対面することであり、見方は町家をあるがままに見ることであり、理解の仕方は町家のありように沿って読み解くことである。それでもやはり解らないことが多いと思う。その理由はやはり私たちの羽織っている衣にあることが多い。私たちはある目的に一番相応しい形や機能を備えたものを優れたものとしがちであるが、これは近代以降の西洋近代合理主義的捉え方であって、近世以前の町家には通用しない。例えば太い大黒柱は家の中央付近にあって負担する荷も多いし、棟近くまで伸びるため長さもある。また2階床部分で3方向から梁や胴差しが喰い込んできて(3方差し)ホゾで削られる部分も大きいから太いのも頷ける。しかし断面が削られるのは恵比寿(小黒)柱も同じで、むしろ恵比寿柱は木置き(トオリニワ上部の物置)があるため4方差しになるし、長さも大黒より15%程短いだけである。従って大黒の太さは構造的要請だけではなく、中世以降の町衆の大黒信仰を読み込まなければ解けないし、さらにミエの占める割合も大きい。この、ひとつのものにたくさんの意味を封じ込める「一物多様」こそが、町家や町家の暮らしを読み解く鍵である。それでも理解できないことは牽強付会をせず放っておく。どれから手にすればよいかとまどってしまうほどテーブルに並べられたたくさんのナイフやフォークの役目をたった2本の棒で果たしてしまう箸の重宝さは使ってみないと解らない。

学習会に参加する
積極的に町家をわかろうとすることが大切
 見学先には改修した町家だけでなく改修プロセスを実見できる工事中の現場も入れたい。現状、工事中、改修後の町家を体験することで“直せるだろうか”という不安は払拭されるだろうし、完成イメージを固めるためにも有効である。またハウジングセンターなどで現代住宅を見学することも彼我を比較することで町家を評価できて良い。町家の学習会などにも積極的に参加すべきである。町家のように住み手や作り手が想いを込めて作ったものは志をもって相手に飛び込んでいかない限り何も語りかけてはくれない。(つづく)

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