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京町家作事組

復旧へのこだわりと新規活用を目指した町家の改修


設計:末川協建築設計事務所 / 施工:辻工務店

黒松の巨木越しに蔵を望む
 2016年4月末にご相談に出向いた三条東山の町家。見慣れた建物で、それもそのはず、8年前に同じ三条通の大店のあずきやの女将さんの主屋の復元改修設計の際、参考にこっそりと出格子の実測をさせて頂いた町家だった。初めて建物に入らして頂けた。16年間空き家だったという間口4間の立派な町家は、お道具がいっぱいで、その前栽も庭木がいっぱいに、すくすくと育っていた。2階のお座敷は本床付きの10畳間、そのオモテは4.5畳、6畳が並ぶ。ジャングルのような庭にある加茂のマクロ石の見たこともないでかい景石、天保8年に東海道(すなわち三条通)に立てられた道標、16mを超える黒松の巨木、三尊像を模した、これまた巨大な石組など、近世末から近代までの歴史が詰まっていた。

三条通に面した外観
 依頼者であるYd邸のお嬢さんは、日本画のご専門、いつも真剣で、ご自身の判断や価値観に自負を持っておられ、そして他人の発言にも注意深く耳を傾ける。町家を残したい思いは十分に伝わり、ご両親を説得し、賃借の検討や単体指定も含めたサポートも望んでおられた。お嬢さんの御祖父が京都帝大の医学部を卒業後、産科医院を始めるために購入された町家である。隣のデイケアセンターの敷地にあった旅館に付属のお料理座敷用の町家だったそうである(ちなみにかつての旅館は「鬼平」こと長谷川平蔵の御用達、三条白川「津國屋」のモデルとも)。

 ともかく、最初の相談では、調査実測の前に敷地内の伐採とお道具の片付けから始めましょう、と5月の連休明けから庭木切り、おっかけ6月の初めから不要な家財の処分に取り組んで頂けた。その間、先述のあずきやの女将にも戦前木造の改修の成果を、いつもながら気さくに御案内頂き、お母様にも今日的な町家改修へのご理解を求めた。

明治期の火袋
 そして6月中旬、ようやく片付いた町家の実測調査へ。工事担当の辻親方とレベルと倒れの実測。沈下のmaxは16センチあっても、大黒柱のイガミは東西南北とも0。いつもながら大店の町家の神懸った構造に思い至る。調査で分かったことは、昭和初年の三条通拡幅の際、元の明治の町家の1階座敷とハシリニワ、火袋を残しながら、1階のオモテ半分と2階に、昭和初期型の町家が覆いかぶさって建てられていること。三条通のかつての幅員を考えれば、オモテから3連の奥行きを持つ町家だったこと。付属の水廻りも同じ昭和初めの築造、その奥には蔵や納屋の明治期の建物が残る。蔵は長年の雨漏りで外壁も屋根もかなり傷んでいる模様、しかし近年の工事でしっかりした置屋根が架けられていた。

 8月初めに構造と外装の改修費用の概算提出。同時に京町家情報センターの協力を得て、賃料の想定。改修費用は10年を待たずに回収できる見込み。店子には宿泊施設の希望者が早々に名乗りを上げた。そして設計契約後、実施設計と内訳を作成した12月。お嬢さんから連絡があり、自己活用に変更したいと(都ハウジングさん済みません)。おっかけ内装設計、設備設計が追加された。元の町家への復元が原則であり、お嬢さんは新建材の耐用年数に根本的な疑問を持っておられた。元の本瓦が残されており、蔵の改修も工事に含めると決心された。

 年を越し2017年2月に工事開始。急ぎの西隣の焼杉板の貼替のため、西側の揚げ前を先行。1階の座敷には2間一枚、間中幅の松の床板があり、揚げ前時には、それを活かして床柱をコボつ設計だった。根性を決めた大工が床下に潜り込んで8センチの揚げ前を成し遂げ、そのままの床の間を守った。施主であるお母様、お嬢さんには工事中の四条町会所の見学にも出向いて頂き、林理事長からも丁寧な応対頂き感謝する次第。また、亀岡のUh邸からも戦前の建具を支給頂き感謝する次第。想定外の工事では、同じ敷地内の別宅の土管のツマリと蔵の土壁の駄々傷み。蔵外壁の鉄板をはがすと四方の台輪が崩壊している状況だった。追加の工事費用もお嬢さんのこだわりにより即断即決。1階のお座敷の床下からは炉を切った跡と、掘り炬燵の跡が同時に現れ、それらの復元も追加工事に。炉壇は平楽寺書店さんのお座敷から支給頂き、重ねて感謝する次第。工期にも余裕を頂き、祇園祭までに主屋工事完了。奥の蔵と納屋の改修は時代祭までお時間を頂けた。

 果たして10月に竣工引き渡し。三条通を見降ろす2階のオモテの格子を外し、時代祭の見物で、竣工お披露目のご案内を頂戴した。残念ながら昨年の時代祭は台風でキャンセル、1年後の秋の楽しみとなった。御引渡しから3か月、今年の初めには大宇陀のボランティアガイドさん達の町家見学を受け入れて頂いた。きっちり直った外観と、元の町家のまま改修した内観に、写真撮影の舞台としての問い合わせが続いているそう。この報告記事の出る前、2月にはお母様の作品展でギャラリーとしてのお披露目を企画されている。近年画廊の店仕舞いが続く三条東山で、歴史の詰まった町家のまま、真新しいギャラリーが賑わいますよう。

<末川 協(作事組設計担当理事)>

2018.3.1