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京町家作事組

祇園祭町会所の再生−四条町大船鉾会所


設計:末川協建築設計事務所 / 施工:辻工務店

 2015年の4月、四条町大船鉾保存会の理事長から、町内での町家の取得についての相談があった。長らく呉服業が営まれてきた昭和初期築造の商家である。前年に大船鉾の復興は無事果たしたが、ご町内は明治の初めに番組小学校建設のために売却して以降、会所を持たず、持ち回りで居祭りを続けてこられた。今回空き家になっていた商家の所有者は、町家のままで残すことを前提に、ご町内にならば路線価で町家と土地を譲るという申し出をされた。前年の宵山では、多くの人たちに鉾の参拝に来て頂けたが、仮設の昇降台設置のため新町通は一方通行となり、下京警察から改善を求められていた。鉾の船体と屋形、埒や駒形提灯の部材をそれぞれの収納場所から搬出入するのにも延べ4日の作業が必要である。新しい会所から鉾の参拝が出来、鉾の部材を町内に収納が出来る千載一遇の機会である。保存会では商家の取得を決定された。

 続く課題は資金のこと。地元の金融機関に保存会が購入資金の借り入れの相談を掛けたが芳しくない。保存会での会合の最中に、お料理光安やAy邸でお世話になった京都信用金庫の若手の融資担当者に電話を掛けた。すぐに必要書類を教えてくれ、本店での保存会との打合せをセットしてくれた。担当部長が、金利と返済期間の条件をその場で聞いてくれた。その足で京町家再生研究会の理事長を訪ねた。会所への改修資金の援助先の相談である。ワールドモニュメント財団(WMF)への打診を快諾頂けた。5月にはお祭と建物の公益性を根拠に、京都市の景観政策課に計画を伝え、会所としての外観の変更を前提としつつ建物の単体指定と改修助成の検討を依頼した。

 6月に商家の所有者にお会いし建物を見せて頂いた。離れを含む屋根のほとんどにトタンが貼られていたが雨漏りの跡もなく、内装もほとんど合板が貼られていたが町家の本来の構造はすこぶる健全であった。融資決定に先立ち、京信の担当者から連絡があり、建物のテナント利用を想定した図面と見積もりが必要とのこと、1,2階別々のテナントが入る最低限の計画を突貫で作成した。晴れてその年の後祭までに保存会が町家の取得を果たし、六本木ヒルズでの鉾建ての直後、これまた突貫でオクの離れの内装の撤去とトオリニワの通路幅の確保の工事、船体部材の収納場所がぎりぎりで本番に間に合い、会所としての第一歩を踏み出した。

 お祭明けには京町家再生研究会、京都市景観・まちづくりセンターの主導でWMFとの調整が始まった。今度はフルスペックの改修計画と見積もりを作成し、10月にはドナーの候補であるフリーマン氏が建物と保存会の取組みの視察に訪れた。そして2016年を迎え、1月、京都市でも町会所の景観重要建造物の指定と平成28年度の改修助成の枠取りが図られ、2月にはWMFの助成が正式に公表された。そして実際の改修計画への検討会も始まった。お祭の会所を象徴する銅板大和葺のオモテ庇や2階の真竹の肘掛の新設と合わせ、戦後に落ち間にされた町家の1階オモテの2室はそのままに、昭和初期型の腰の石貼は撤去して祭時にフルオープン出来る平格子を新設することが決まった。ファサードのデザインの参考にする六角町の町家も作事組理事長から教示があった。次年度の助成予算確保のための外装改修設計を3月中に終え、4月から内装や設備の実施設計。設計に伴う調査解体ではササラや胴差のほとんどが再利用材であることが分かった。同時にその年の後祭より建物から鉾に参拝出来るよう、仮設の階段設置のための壁の開口や、仮設の便所、これからも長く使うことになる橋掛の製作の工事など、会所としての第二歩目の工事が完了。お祭の最中に京都市景観・まちづくりセンターの担当者から連絡があり、会所利用なら京都市の空き家活用の助成が使える可能性があると。鉾の巡行が終わるまではとても書類の準備が出来ず、工事の着工が8月後半にずれ込んだ。しかし、景観助成とは別に貴重な助成が決まり、まちセンにはリクシルより会所の衛生器具提供を取り付けてもらい工事予算を補って頂けた。

 先述のように町家の構造は健全で、大工工事の見せ所はオモテの軒の出桁、腕木、天秤梁の新設とそれに伴うヒトミ梁の架け直し、それに連なるオモテ3室の大和天井の新設、祭事にお飾りの場となる2階4室の造作、鉾の屋形部材を仕舞うオクの離れの収納床の軸組など。ご神体を飾る床の間や、3層の欄間の復旧には、取り壊される銀閣寺畔の数寄屋から保存会が提供を受けた造作を再利用した。欄間には船型の鉾のシンボル、青海波4つの組合せ文様の透かし彫り。囃子方が鐘を吊るため、2階オモテには天井を補強し金物を取付。新設の水廻り棟の木舞掻きと荒壁付け、オモテの格子や格子戸のベンガラ塗りではワークショップを行い、ご町内や囃子方、まちセンのスタッフ、第5期の棟梁塾生に参加して頂けた。今年の4月に無事竣工、会所のお披露目では、前栽に榊の木が植えられ、これからの神事に使われる。

 作事組では船鉾、八幡山に続く3軒目の祇園祭の会所、釜座町町家を含めると4軒目の町家(ちょういえ)の工事であり、初めての再生となる。2014年の鉾の復興をお手伝いしたご縁がつながり、多くの方々の力添えのおかげで、鉾の作事方も設計も日々の本業で、ご町内の町家改修に携わることができた。ご町内の神事とともにこの会所が未来永劫ながらえますよう。




末川 協(京町家作事組 設計担当理事)

2017.7.1