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京町家作事組

「あけびわ路地」の5軒長屋再生する--下京区


設計:アトリエRYO+内田康博 施工:株式会社大下工務店


5棟連棟の外観

ミセニワからキッチンを見る

1階オクノマより坪庭を見る

2階座敷
 今までに2、3度京町家通信に紹介された、下京の5軒長屋が工事終了し、7月9日再生研の竣工見学会が催された。既に5棟の内2棟目にはカナダ人のテナントが住み始め、第3棟には、東京のM美大名誉教授夫妻が引っ越しの最中だった。残りの3棟も入居希望者が絞られ、順次契約待ちの段階を迎えている。
 
 敷地の特性として、巾3mの広いコの字型回り路地に面し、その路地が表の南北通りに西面する3軒長屋を囲む様に配置され、更に路地の北側に東西2軒の独立借家が建てられていた。昭和13年〜14年、太平洋戦争直前期にこの10軒の借家群が建てられ、近年北端の1棟が解体され、今は駐車駐輪スペースとして利用されている。10棟共南北に棟を配し、東西に開口を取った日照り良し、風通し良しの環境に恵まれている。因みにS.D.C.学生コンペで提案された(通信vol.102)「あけびわ路地」という呼称を施主が気に入り、実際にそのように命名されることになった。

--「外観」と「平面」
 建物の外観的特徴は、階高が高く、洋格子にダイヤガラスの入った窓と、腰壁の布目とスクラッチ紋様の二丁掛けタイルが昭和モダンの印象を与えている。5軒の並びが南から2:2:1のまとめ方が、屋根を段々に高低をつけて葺き、5分節した玄関をリズミカルに並びながら、2階の窓やまわりの浅黄の色大津壁が全体を水平にまとめ、統一感を与えている。
 
 一方、各戸の平面は、間口2間奥行4間の限られた広さを、南側に約1mのトオリニワを通し、北側のオモテ、ダイドコ、オクの3室を3帖、2帖、4.5帖の1列3室型の町家にまとめている。そして、裏側には台目1帖大の便所とヌレ縁で1坪の寸庭と、南のウラニワ(洗濯機、給湯機置場)に分けている。各室は小さいながらも若いカップルや小さな子供がいる家族が暮らすには充分な大きさの都市住居である。

--「改修のポイント」
 全面土壁の塗られた各戸の界壁は、流し台やガスレンジ裏のモルタル下地タイル貼部分の柱やヌキ、竹小舞が腐朽し大穴があいていたが、作事組の基本メニューである構造改修、つまり通し柱の根継ぎをし、土台を入替え、竹小舞を補足して、土壁が塗り直された。これには京都市が公認する、まちの匠の智恵を活かした耐震改修補助金が支援されている。原則として、内壁は土壁中塗仕上げとし、床はタタミ敷か節付きフローリング貼とし、室の間仕切りを硝子又は紙障子、或いは板戸又は襖戸という古建具で区切ったり、連続させたりして、現代生活のバリエーションを豊かに演出出来ることにした。こうして、決して贅沢ではなく、伝統構法による直截的な改修を加え、キッチンやユニットバス、エアコン等の現代設備を刷新する事で、適切な価格で時代にあった多様な生活の場を組織出来る事がとても有難い事ではないだろうか。
 
 最初にこの長屋を希望されたテナントは、意外と国際的な生活体験を持つ顔ぶれが多いことに気がついた。京都という土地柄か、或いは現代の地方都市にも起きつつある新しい現象なのか、この事についてはいずれ時間をおいて反省する機会を持つ様にしたい。

--「空き町家活用の決断」
 施主にとっても、親の代から長らく空き家状態が続いていた長屋を持ち続ける事は、物心共に大きな負担であったに違いない。しかしながら、旧知の再生研メンバーと再会して以来、事情が一変する事になった。相談を受けた研究会では、早速情報センターと協働し、物件の調査、事業企画、積算、資金計画、回収シュミレーションの提案等、実践的プログラムを施主に推奨した。同時に一昨年より京都市都市計画局内に設置された、「まち創造推進室」と共同して、空き町家活用流通促進事業として認定を受ける事にした。丁度、京大建築学科の高田研究室が、地元学区のコミュニティー研究と、空き家対策を進めていた事もあり、当方の研究会の検討委員会に施主と共に参加して貰った。こうしたおかげで若い研究者や学生、住みたい町家を求める若年世代、居住希望者等、普段施主が出会う機会の少ない多様な人々と、実際に借家問題について討議する機会が持てた事は、プロジェクトの決断において、大事な後押しになったことと思う。施主の立場からは、不動産のプロのすすめる今流行りのゲストハウスやシェアハウス等へのコンバージョン案ではなく、長屋を従来どおり5棟の独立した借家として再生する事を決断された。地元金融機関は、低金利融資で資金提供に応じて貰う事が出来た。今回はこうして、施主の立場に立ちながら、長年の空き家を健全で長持する賃貸住宅として、社会に流通させる事が実現した。ここで生まれる新しい形の長屋コミュニティーの展開については、次のレポートがなされるのを楽しみに待つ事にしたい。
 
 最後に、この間、本プロジェクトで御世話になった皆様に感謝の意を表しつつ、改修工事無事終了の御報告にかえたいと思う。

木下龍一(京町家作事組理事長)

2016.9.1