一棟貸しゲストハウスへの町家改修--下京区設計:中村設計/施工:アラキ工務店 昨年の6月、作事組に改修の相談に来られたのは、新規に外国人向けのゲストハウスを運営したいとされる京都市内の不動産屋さんであった。京都のみならず日本全国で増える外国人観光客に対し、宿泊施設が不足している昨今、京都でも行政レベルで宿泊施設の増設へ向けた政策があるなか、京町家のゲストハウスとしての活用にも注目が向けられている。 既存外観 実測調査に入り現場を確認していると違和感を覚えた、町家の改修で既存の内外装にボードが貼られて、間取りが変更されていることはよくあることだが、なんとこの町家間口に対して真二つに切られている事がわかったのだ。恐らく当初は2列型であった形式をちょうど登梁のラインで分断していて小屋裏をのぞくと一見側壁に見える上部には登梁があり、そこからちょうど反転した分の間口の建物がお隣にあった。その他調査の結果、屋根の全面葺き替え、構造改修、設備配管、内外装と町家改修にかかるフルスペックの内容が必要と判断し計画を進めることになった。 露天風呂 土間 ゲストハウス竣工 いざ工事に取り掛かるとやはり構造改修が中心となった。目に見える雨漏りで夕立になると室内に滝が流れるほどで、垂木、母屋、柱、ササラ等のいたる箇所が腐っていた。そして前述の分断された壁はもとより外壁ではないため柱は表と奥の隅柱と部屋角の三本しかなく、本来なら胴差があるはずの二階床は昔の敷居を下敷きにしてその上に二階の柱を乗せているだけであった。さらに登梁の上は束だけの状態で外部からトタンが貼られていた。よって今回は現在の側壁を改修するのではなく、その内側にもう一枚あらたに側壁を造り、ササラは一端切り離しそこに新たに通柱を入れ直すことにした。その他、腐っていた部材は新材に入れ替えた。構造改修を終え、内外装に掛かるがそこはシンプルに畳、板間、中塗壁、外壁は黄大津として外国人に素朴な町家を体験させたいという施主の希望ともマッチして仕上げた。 果たして今回は珍しいケースの構造改修であったが無事工事が完了してゲストハウスとして新たに活用される町家を見守ろうと思います。観光客への宿泊施設として町家を活用するケースは今後も増えていくでしょうが、町家の存続という上で長い目で評価していきたいものです。 井澤弘隆(京町家作事組理事)
2016.5.1 |