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京町家作事組

京町家再考×京町家netー上京区/中務町の町家


設計:クカニア/施工:大下工務店

 千本丸太町に程近い連棟長屋の一棟。表の低い厨子二階型のたたずまいが、ところどころではあるが通りに軒を揃えている。

 今回の改修事例は、住み手をまだ見ぬ建物。棟札は出てこなかったが、明治25年の納税を示す書類が見つかっており、ざっと120年以上を経た町家である。以前はご老人がお住まいだったようだが、2-3年の空き家期間を経て、改修工事を終えたのちに住み手を探すことになる。

 依頼主は自社でも多数の改修を手掛けておられた不動産会社の八清さん。町家利活用の風潮が進む昨今、京都の文化的資産としての京町家をもう一度見つめなおし、伝統技術や文化的背景、暮らしの作法を内包する”本当の京町家”を次世代へと継承する改修をしようと、作事組を通じて計画が始まった。

 建物は間口2間半・奥行6間に水廻りの離れをもつ一列三室の間取りで、室内は単板等で大壁に覆われているものの、大きな改変はされておらずハシリニワも土間のままであった。改修を進めるにあたっては、この町家本来の姿を活かしながら、新たに入る住まい手が生活に馴染めるようにと思案した。
 煤で黒くなった壁の残る火袋や、ミセノマや玄関の大和天井はそのままに。片側半分だけアルミサッシ窓に改修されていた虫籠窓は、改めて地を作って復元し、庭の敷石やミセノマの建具などは、場所を移して再利用した。2階の二室が独立して利用できるように、階段を押入からハシリニワに掛け替え、離れの水廻りは、現代設備を入れて刷新。離れまでのアクセスを重視して、ハシリニワは上げ床に改修した。

 構造改修にあたっては、販売者としての責任を果たそうとする施主と、伝統的な町家の保全や再生を担う作事組との隔たりも表面化したが、意見交換を行いながら方針を決定した。施主からの要望に従い、柱のすべり幅を広げるために礎石の周りにコンクリートを打設する一方、足固めの設置に対しては、伝統軸組を重視する作事組の考え方を町家構造から紐解き説明し、大方の理解を得た。また、多数の施工者と付き合う不動産会社として、技の標準化のために定めている施工方針に対しては、施工を担当した大下工務店の技術を信用して任せて頂いた。

 余談ではあるが、立場の違いによる意見の相違も、突きつめれば世間一般や行政の動向によるところも大きく、結局は私たちの考え方が住み手をはじめ広く一般に受け入れられる土壌が必要であると感じた。作事組の改修方針を世間に投げかけながら、理解を広めることが一層必要であると思う。

 着工後、解体をすすめると合板で覆われていたトオリニワの側壁に、ほぼ土がついていないことが判明。貫を補修して竹小舞を編み直し、土をつけ直して修繕した。小舞掻きや荒壁塗の際には、一般の方々を対象にした参加型ワークショップを開催し、京町家の構造や成り立ちを体験してもらう機会を設けることができた。残念ながら連棟であるため、揚げ前は隣棟に影響を及ぼさない範囲にとどめたが、根腐れしていた柱の足元は根継ぎしなおし、井戸引きも入れ替えた。床の下地にも杉板を使用し、ゲンカンは三和土仕上を採用した。

 ともすればスピードや見た目を重視しがちな売買物件において、町家本来の姿に向き合った作事組の技を発揮できた事例となったと思う。この町家がどのような住まい手を見つけ、そののちどのように過ごしてゆくのか、改修に関わってきた私自身も大変興味深く楽しみである。

 最後になりましたが、意見交換や調整を含め、この機会を設けてくれた担当者をはじめとする八清の方々、改修方針や協働体制についてアドバイス頂いた作事組理事の方々、普段と違うルールに戸惑いながらも全力で現場を納めてくれた工務店のみなさんに感謝し、お礼申し上げます。

南麻衣子(京町家作事組理事)

2015.11.1