Is邸改修工事--表屋造りの大型町家を住みやすく設計:内田康博建築研究所/施工:且R内工務店
所在地が新町通り三条近くということもあり、釜座町町家に直接ご相談にお出でいただきました。近年こまごまと建物の手入れをして頂いている大工さんは伝統構法による改修には慣れていない様子なので、伝統構法に詳しい設計者を紹介いただけないかとのことでした。また、キッチンやトイレ、洗面など、水廻りの改修については詳細に検討したいため、設計者が必要とのこと。作事組では設計と施工を一体でお引き受けすることを基本としていることをご説明し、元の大工さんともご相談頂いた上で、施工も含めて作事組にお任せ頂くこととなりました。 建物は間口六間を超える表屋造りの大きな町家で、奥には蔵が3つ並ぶ大店です。戦前は白生地を扱っておられたとのこと。築年は不詳ですが、蔵には明治29年上棟の記の棟札が残され、母屋もその頃に建てられたと思われます。その後昭和の始めころに大規模な改修が行われ、図面が残されているとおり表屋が総2階とされ、母屋の座敷の列は作りなおして1、2階の床と屋根を高くし、表屋と母屋をつなぐゲンカンの2階も高く作り直されています。昭和初期の改修の部分は軒天井に漆喰が水平に塗られるなど、当時流行した和洋折衷の意匠が時代の雰囲気を感じさせます。 改修のご希望は、1、2階とも事務所として賃貸されている表屋は外壁を塗り直し、専用トイレ及び流しを設け、住まいとして使う母屋は座敷列の外側にむけて下っている床を揚げ、座敷とハシリニワに挟まれたダイニングキッチンをやり直し、あわせて洗面、風呂、トイレもやり直し、住みやすくしたいとのことでした。 座敷列の床が下がっているのは30〜40年程前の隣地のビルの建築の影響と思われます。最大5センチ程下がっていましたが、大きな蔵の揚げ前もする大工さんが20トンのジャッキを掛けてもわずかしか揚げることが出来ませんでした。隣のビルの工事の際に補強のために入れられたとみられる土台がコンクリートで固められ、隣地側から固定されているためと思われます。仕方なく、内装のみの調整でご了解頂きました。昭和の初期に作りなおされた座敷列の構造体は梁や桁が蔵と比べても遜色ないほど大きな部材で傷みもなく、構造耐力の点では全く心配ありませんでした。
主座敷を含む三室並びの和室は床、壁、天井そして建具も美しさを取り戻し、早速次々と訪れるお客様を前栽から中庭へと通り抜ける光と風と、庭の緑と、屏風飾りで歓迎しています。 内田康博(作事組理事)
2014.7.1 |