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京町家作事組

町家のメンテナンス:蟻害への対処と予防——鷹ヶ峯Tg邸


施工・山内工務店


蟻害で落ちた大引

作り直した側溝

外壁と塀の波板トタンを焼杉板を張りかえた
 昨年末、京町家再生研究会の小島理事長から作事組事務局あてに、町家の手入れの相談があるので早急にみてほしいとの連絡をいただいた。できれば翌日、まずは大工さんにみてもらいたいとのことで、作事組のメンバーに急遽連絡をとり、小島理事長と、作事組から山内副理事と事務局担当内田がお伺いすることとした。

 建物の形式は2列3室型、間口5間半、奥行6間半の大きな町家で、築年は明治中頃とお聞きした。ファサードは腰壁を立て窓の外に金属パイプの竪格子を設ける形に改修され、2間幅のトオリニワは低く床を張ってキッチン、洋室、風呂トイレなどに改修され、それ以外は和室として美しく維持されている。

 相談内容は、以前から和室の敷居にいくつか蟻害がみられ気になっていたが、最近畳の床下地がだいぶ弱ってきたためシロアリ駆除の業者に点検してもらったところ、駆除以前に大工さんに修理してもらう必要があると言われ、困っていたとのこと。付き合いのある工務店さんは伝統工法には詳しくないので、相談先を探して京町家再生研究会に連絡された。

 早速、敷居に蟻害がみられる付近の畳をめくってみたところ、敷居だけでなく、畳と床板、床組の一部も蟻害がひどく、大引の仕口が蟻に喰われてなくなり、片方落ちている部分もあった。改めて日時を決め、建物全体の床下を点検し、傷んでいる範囲を確認して改修工事の見積もりを提出することとした。

 改めて点検したところ、あちこちに蟻害がみつかった。しかし、建物全体に傾きや歪みは少なく、傷んで要る部分は限定されていた。原因のひとつは通気不良で、表側腰壁に設けられた通気口は小さめでしかも裏側から板で塞がれていた。また、建物の横には広い駐車場があるが、建物に向かって水が流れ、建物横に排水溝が設けられているが土で埋まって流れが悪く、床下へ水が入りやすくなっていた。対処の基本方針として、まずは雨水の浸入を防ぐために側溝をやり直し、通気口の面積を増やして通気を確保したうえで、傷んだ部分をやり直すこととした。また、これを機会に、内外装、外構のこまごまとした補修も併せて行うこととした。概要は次の通り。

 構造:床下蟻害部分のやり替え。一部柱・床を揚げ、柱を根継ぎする。床下換気口を大きなものに付け直して通気を確保。側溝をやり直し(U字溝設置)、道路の側溝に接続する。
 内部:傷んだ畳の交換、及び表替え。傷んだ敷居のやり直し。一部地板の張り替え。洋室の床板の一部張替え。掘り炬燵のやり直し。襖や障子の一部貼り替え。天井塗装の一部塗り直し。建具の一部入替え。
 外部:北側外壁(側壁)トタン張りを焼杉板に張り替え。塀の控え柱のやり直し。塀瓦の補修。
 その他、ウォシュレット取替え、エアコン撤去処分・配管穴埋め、門の樋の補修などを行った。

 今回は大規模な改修ではなく、日頃の手入れの範疇をすこし超える程度である。蟻害の対策をもっと早く行なっていれば改修の手間をもうすこし簡単に済ますことができたが、逆に、ついつい遅くなってしまってはいるが、建物の傷みをいつも気にかけていたのでこの程度で済んだともいえる。作事組で改修させていただく事例には、柱と床が20センチ以上下がってしまっていることもあり、もちろん補修は可能であるが、壁の塗り直しを伴うなど、大掛かりになってしまう。傷みが少なければ補修の手間も少なく、費用もあまりかけずに、建物を長く快適に使っていただける。このことを、もっと広く知っていただくことも、作事組の重要な役割であることを改めて感じさせられた。
内田康博(作事組理事)

2013.9.1