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京町家作事組

改修事例おばあちゃんの家-住み継ぐ町家——中京 Ks邸


設計・内田康博建築研究所/施工・山内工務店


ファサード
 昨年の6月、楽町楽家の一環として町家改修相談会を実施中の釜座町町家に子供2人を連れた若い夫婦が訪れた。古い町家に住んでいるが、あちこち傷んでいるので改修を考えており、4歳の男の子と4ヶ月の女の子にいずれそれぞれ子供部屋が必要になるので、その時に備えてどのような改修が必要でどの程度の工事費がかかるものかまずは見てほしいとの事だった。早速作事組理事会で担当を決め、調査に訪問した。

 建物は典型的な1列3室型、総2階の形式で、ハシリニワが幅2メートル程と広く、階高も高く全体に広々としている。前栽の奥にはモルタル外壁の離れがあるが、今回のご相談の範囲外である。数年前まで祖母が住まわれていたが、亡くなられてから空き家となったため、Ks氏ご一家が入居したとのこと。屋根裏から取り出した棟札には昭和2年にKs氏の曽祖父が建てたことが記されていた。建物全体に傾きや不陸は少なく、大きな傷みは見られない。雨漏りの痕跡があるが、10年ほど前に表の下屋以外の屋根が洋瓦風スレート製品に葺替えられている。ハシリは床と天井が数十年前に新設され、風呂が少し拡張されているが、座敷周りなどはほぼ元の状態のまま維持されていた。但し、障子紙や襖は破れ、畳は傷み、建具は開け閉てができないところも多く、ガラスが割れているところも目立つ。特に2階はここ数十年物置きとしてほとんど人が出入りしないまま放置され、畳は過去の雨漏りで傷んだままであった。また、設備も数十年前に改修されているが、そろそろ更新の時期を迎えていた。従って、改修が必要な範囲は柱梁、大屋根など主要な構造部以外の部分であった。

 当初、改修は1年先を見越し、たたき台としての計画案と工事費を提出していたが、建物の所有権をご本人に移転することで京町家専用住宅ローン「のこそう京町家」の融資が改修費として利用可能であることがわかったこともあり、急遽年明けに着工の段取りとなった。

 間取りの変更としては、ハシリニワの一部を洗面脱衣として引戸で仕切り、2階の真ん中の部屋の一部を襖で間仕切り半間幅の畳廊下とした。また、ハシリニワに低く張られた天井は撤去して火袋の吹き抜けと天窓を復元し、床をフローロングで張り直した。その他の改修内容は、壁の塗替え、畳の表替え(一部交換)、建具の建て合せ、襖と障子の貼り替え、割れたガラスの入替え、設備一式のやり直しとなった。トイレと離れに続く濡れ縁を屋内とすることも検討したが、予算上の判断で、最終的に濡れ縁として残した。2階の床レベルを見ると揚げ前はほぼ必要なく、数本の柱を1〜2センチ揚げ、1階の床の不陸は敷居と鴨居を調整することで水平に戻した。

 ハシリニワの外側に面する壁はキッチンセットと化粧合板を撤去すると案の定、大きく傷んだ部分があったが、竹木舞を掻き、荒壁を付けて中塗り仕上げとした。ちょうどNHK国際放送から京都の職人技を特集する番組取材の申し入れがあり、木舞に土壁をつける場面などが取材され、先祖から町家を受け継ぐ若夫婦へのインタビューも快く受け入れていただき、制作会社から届いたDVDは親から子へ、子から孫へと大切に住み継がれる家の改修の一大事業のよい記念として喜んで頂くこととなった。


ミセニワとミセ

ハシリニワのキッチンセット奥には洗面脱衣室

内田康博(作事組理事)

2013.5.1