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京町家作事組

美術館を再生する——木田安彦美術館(旧MN邸)改修工事


施工・大下工務店


ファサード
 一昨年暮れの吉日、地鎮・工事始めの儀式で振りかざした玄翁を見事に空振りさせ、大笑い。皆で笑顔に包まれ着工した。

 場所は高倉蛸薬師、昭和5年普請大塀造りの邸宅は、真・行それぞれの御座敷からなり、草のしつらえ三畳小間茶室、水遣に茶庭、当初の洋室、土蔵、陰陽の景石と人間よりも大きな春日灯篭が据えられた前栽を持つ立派な京町家だ。しかし長い年月手が入っていないのか、老朽化がみられた。美術館という不特定多数の人々が出入りするということを考えると、全体的な改修が求められた。

 私共棟梁塾一期生の合言葉である“苦労の跡を残さないのが一流の仕事!”を目指し各職方と念入りに打合せ改修に挑んだ。

 左官職は、当初の聚楽土の色に出来る限り合せる為、土を探し、最小限の塗り替えと補修にとどめた。
 瓦職は、出来る限り古瓦で差替え葺土まで再利用した。

 板金職は、穴の開いたブリキ板は葺き替えたものの、銅製樋や葺を模した素晴らしい銅板葺きを残す為、パッチワークの様な修繕を施した。

 畳職は、岡山産藺草で表替え、雨漏りにより土に返った畳の入替えは、西陣の大店が解体される際に引き揚げたという丹波裏の畳床を用いた。 表具師は、風化した既存白聚楽壁の腰紙を貼り替えるのに、糊が付きにくく四苦八苦。
 電気設備は床下と天井裏を何往復もし、普請時から既に存在していた電気配線用の鉄製配管から引き線とビニール巻線を抜き替える事で壁を傷めないという偉業を達成した。電気とは逆に給排水は衛生器具を修理し再使用、配管を新しくし、洗い職は、古建具を蘇らせた。

 そして大工は、各職方の下地に追われながら、多数の拝観客に備え畳下地の補強、天井裏に掃除機をかけた。東式(床を上げたハシリ)の炊事場を板の土間に戻すことで、隠されていた傷み柱と落ちた土壁に、金輪継ぎと小舞掻きを施すことも出来た。床板などの化粧材には古材を、その他の材には京都産材を、材木にもこだわった。全ての建具が当たり前に閉開出来るよう建合せ、風化した木材に柿渋を塗り工事を終えた。

 無事に開館レセプションを迎える事が出来、私共もお手伝いさせて頂ける事となった。多数の方々から頂いたありがたいお言葉の中、一番嬉しかった忘れもしない言葉、「どこなおさはったん?」 大工冥利に尽きる。

 前後しましたが、支援して下さったWMFの方々、その受け皿となり個人所有の大型町家の再生に踏み出して下さった京都市景観・まちづくりセンターの皆さま、その大役を任命、応援して下さった京町家再生研究会、そしてなにより修復費用の一部と維持運営を負担し、数々の素晴らしい作品によって、この町家に命を吹き込んで下さった木田安彦様、心より感謝いたします。

大下尚平(作事組理事)

2013.3.1