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京町家作事組

京都型耐震リフォーム支援事業を使った町家の改修——左京区下鴨F邸


設計・冨家建築設計事務所/施工・堀内工務店


改修後

改修前
 左京区下鴨、下鴨神社と出雲路橋との間の地域でF邸は路地の中ほどにある2軒長屋の借家として建てられました。

 当町家は何度か所有者が変わり、現在の所有者となりました。細い路地の中ほど南側に建ち。一戸当たり間口2軒半強程で奥行は6間弱の規模です。

 改修工事をする前に、建物の本来の構成を理解しなければ、適切な計画は立てられません。何度か工事を受けて原型を留めている箇所が少ない状態でしたので、間取りを復元検討して改修計画を立てます。

 考察すると、表の庇下出が600mmほどの部分は増築で本来ひとみ梁下にはお隣同様に平格子が嵌っていました。また「洋室」が広かったのはナカノマとその押入部分を奥の「6畳間」と「洋室」にそれぞれに分割して取り込んだためで、本来の間取りを想像させる位置には柱が建っていました。

 本来の間取りは表に三畳のミセノマ押入に急勾配の階段。次に三畳のナカノマに押入、奥に押入無し、吊床の6畳座敷、奥行き半間弱の縁側と標準的な一列三室型の間取りが現れる。風呂は無く、通庭奥に便所があったようです。

 作事組へ依頼されたお施主のご要望は町家に適した改修ということで、インターネットを使い町家に最も適した改修方は何かと勉強され、作事組を選ばれたとのことでした。寒さの対策と表の防音も気にされていましたが、「あとはお任せします」の一言で非常に信頼していただきましたのでその分責任も重いと慎重に設計しました。

 まちの匠の知恵を活かした京都型耐震助成、を使った改修にあたり、必要要件にも合わせて計画を立てなくてはなりません。また2階のトイレや表の庇下などは減築の方向で考えました。

 いままで京都市の耐震支援助成は京都市で推奨している構造計算方と構造評点にこだわり、多くの町家が該当できない状態でありましたが、今年度のまちの匠京都型耐震助成は計算方や構造評点を問わない、建物健全化または計算を伴わなくても明らかに耐震性が向上できるもについて助成対象とするものです。

 2軒長屋は同じ所有者でない限り2軒同時に計算し改修することが事実上不可能でしたが、今回のケースにおいて最も適した助成だと思います。

◎改修のポイント(助成制度の点)

 助成対象は昭和56年以前に着工されたもので、軸組構法により一戸建て・長屋建て。共同住宅で且つ住宅の用途であるものです。そして助成メニューがあり京町家などの伝統工法では
(1)建物の健全化(土台、柱の修繕、歪み補正、基礎の補修、土壁の補修)
 それぞれ上限30万円。
(2)屋根の軽量化に上限30万円。
(3)床面等の強化(小屋組・2階床組の一体化、1階床下の足固め根搦みの設置)
 10万円と30万円。
(4)シェルターの設置に上限30万円。
付帯工事に(1)外壁の修繕(2)雨といの修繕(3)土管の撤去(4)土台や柱など防蟻処理にそれぞれ上限10万円。
これら合計60万円を上限として組み合わせる仕組みになっています。

 今回は、建物健全化では柱の根継ややり替え、歪みの補正、土壁の修理。屋根の軽量化。付帯工事では外壁の修繕を組み合わせて申請しました。

 過去のリフォームで大壁に隠されている部分が多かったため、漏水などにより柱の足元が腐っている部分が多く、根継ややり替えにより補修。また隠された壁は大きく傾いていました、通庭と座敷の壁・柱脚は石から滑り落ち大きく沈み込んでいましたので、2階床も同様に引っ張られ床が沈んでいました。この変形に通し柱が「く」の字に曲がり危険な状態でありました。ジャッキアップによりストレスを除去し、基礎石もしっかり据え直し、柱脚も元の位置にもどし、歪みの補正を行いました。弱ってしまった通し柱には添え柱をして補強しました。歪み補正に伴う土壁の損傷も中塗りをこそげ落として荒壁の補修を行いました。柱脚を戻した壁は2階東面外壁へと続くもので、歪み補正に伴う付帯工事として外壁の修繕(焼杉板張)と合わせて工事をしました。屋根の軽量化も行い、葺き土をおろして引掛け桟瓦に葺き替えました。

◎改修のポイント(意匠)

 過去のリフォームにより内装、外観共変わってしまったものを当初のもの戻し、町家らしさを加えていく作業となりました。正面は玄関開き戸や増築した腰壁窓など、また外壁はラスモルタル仕上で大壁でしたが除去しました。外壁は漆喰または焼杉板。一階正面は出格子にバッタリ床几、木製建具の引込戸の玄関、玄関土間及び表は三和土として要所には踏石を設置して町家らしい設えとしました。また内装は表のミセノマとナカノマを一体とした部屋として床材に栗を使用しました。また階段がもとの位置のままでは勾配が強いままなので、一間ずらしてナカノマの位置に置き、2階の押入位置を逆転して緩やかな勾配の階段を作ることが出来ました。そして数カ所に天窓を設けて、玄関・台所・階段・洗面室など窓が取れない位置に設けることで明るい室内、換気の取れる居室としました。

 今回の改修により、この町家も末永く残っていくことを願っています。

冨家裕久(京町家作事組理事)

2012.11.1