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京町家作事組

船鉾収蔵庫土蔵を修復する


設計・アトリエRYO/施工・山内工務店


外観

内部
 5年前、祇園祭船鉾町会所の改修が終わった平成19年7月の祭りの最中、保存会理事長の長江さんから裏の収蔵庫に白アリが発生しているから見てもらいたいと依頼され、早速調査をした。間口2間半 奥行4間半 総2階建の土蔵の重厚な屋根を支える大梁と担ぎ梁、2階床を支えるササラ梁に蟻害が甚だしく、崩壊寸前の状態に見えた。祇園祭の時期は、湿度が高く、木質の構造材も湿気でしっとり濡れているのが常態ではあるが、屋根に登ってみると、本葺きの筒瓦が、各所で大きく口をあけ、雨水が流入していた。そのため葺土がたっぷり水を含み、それが軒蛇腹を通じて側壁にしみ込み、木造軸組部材が白アリの好む最適条件を満たしていた。そのため、応急処置として、防蟻剤を注入したが始末におえず、緊急に屋根と小屋、軸組みの改修工事が必要であると判断された。そこで山鉾連合会を通じて、京都府、市の文化財保護課に緊急調査報告書を提出し、改修工事の補助金助成を申し入れた。途中、緊急措置として、鉄骨等で仮設補強を行いながら、3年間待った上で、平成23年度に修復工事に着手する事ができた。


大梁つなぎ梁
 修復工事は、7月25日に始まり、今春3月末に完了した。まず、四周の花崗岩基礎石の上に載っている通し柱24本と、管柱4本の傷んだ足元を根継ぎし、微小な所は鉄板を重ね差しして揚げ前を行い、架構を水平かつ垂直にもどす作業から開始した。次に、大梁(46cm20.3cm・松)と、それを受ける側柱(16cm角・桧)間の担ぎ梁(23.5cm12cm・松)を下から順序よく外し、仕口の形状を測りながら1本ずつ新材に墨付けし、刻んだ上で差し替えていく。同様に、2階床のササラ梁(35cm13cm・松)の差替えも行った。他に、1階床板をめくり腐朽した大引を交換、2階床板や、小屋裏の一部化粧野地板、タルキにも5本程腐朽がみられたため新材と取り替え、最終段階で表庇を新設した。


大梁つなぎ梁

野地板解体
 次に、重要なポイントは、土蔵造の分厚い壁の改修である。表面に大きな割れの生じた北壁を中心に、傷んだシックイ層からめくり始め、中塗層までは全周壁共通に撤去する。しかしながら、北側は途中で、壁中心部に混入していたコンクリートブロック等異物を全面撤去したため、竹小舞下地から修復することになる。腐朽が確認された、竹下地や縄は、全て撤去し、同形同質の材料で貫に編み付け、荒土をつけ直していった。二工程ほど荒土をつけ、縄シバリをし、均し押えを繰り返し、さらに伏せ縄、荒土押えを重ねて、所定の厚さに戻していく。充分な乾燥期間をとりながら中塗りし、コテで桧垣地を描いてその上に中塗りを重ね、今年の春分を待ってシックイ下塗りの上に、上塗りシックイをかけ、コテで充分押えて仕上げた。時間と労力、知力をかけた伝統工法の再生である。最後に左官と並行して、本瓦葺きの屋根の改修が行われた。屋根の葺土は全て、既存のものを下におろし、新しい土と藁スサを混ぜ、1ケ月程寝かせて、もう一度屋根に16cm厚さで敷き直す。2寸角の桧タルキに約1/100のムクリをとり、巴釘で小屋地に止めつける。杉野地板貼ルーフィング仕舞いの上、タテ横桟木を流した上に、軒瓦・平瓦・巴瓦・刻み袖瓦の順に、水糸に沿い釘止めする。棟は、黒南蛮を敷き、カニ面戸から台ノシをのせ、その上に割ノシ5段積みして、冠瓦を積む。鬼瓦は、玉と打出の小槌の彫られた、旧来のものを再利用し、銅線で緊結固定した。

 全工程、8ヶ月の修復工事であった。保存会の役員や近隣の皆さまの熱い情熱に支えられて無事完了できた事を嬉しく思いながら、収蔵庫土蔵の末永い平穏を心からお祈りする次第である。

木下龍一(再生研理事)

2012.5.1