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京町家作事組

京町家の宿“五辻庵”──上京区五辻町・S邸


設計:アトリエRYO/施工:且R内工務店


ファサード
ファサード
 昨今、町家を利用した宿泊施設の人気が高まり、地方や海外からの利用希望客が急増していると言われている。そしてその要望に応える様に各所で宿泊施設への様々な町家改修が行われている。しかし、空き町家の利活用を求める人々の町家への理解の具合によって、時には町家の存在様式の根本を否定するような改造を加えているものもあり、町家の生活様式や歴史的背景にも敬意を持って貰えるように、我々も事例毎に心を配りながら、質の良い再生事例を創出してゆく必要がある。  対象の町家は、五辻通り智恵光院西入る南側に位置する、元呉服卸商の商家である。大正15年(1925年)京都府への建築届書のある、表屋造1列4室総2階型で、間口3間奥行16間の敷地最南部に、1間半3間の2階建土蔵がある。五辻通りの南側には未だ町家が5,6棟並んでいて、北側正面には、法華宗総本山本隆寺の正門と本堂伽藍が建ち並び、千両ヶ辻界隈景観整備地区の中でも優れた一画を形成している。

■改修のポイント
 ファサードは、開口部のアルミサッシを木製建具に取り替え、入口上部のムシコ窓や、かしき造の屋根庇下の真壁をジュラク土塗にし、花崗岩腰石の上には出格子窓、2階にも格子窓を取り付けた。西陣の呉服卸商であった当時の外観に思いを馳せながら町家の宿らしい風情を新たに追加した。
 施主の要望は、今京都を離れている所有者の子供達が、次代において再住出来る様にこの町家ができる限りそのまま姿で受け継がれる事であった為、将来もう一度全体を町家本来の用途に戻せる様に大規模な改造を避けた。その為、現在の町家を傷める事の無い様に旅館用途への変更面積を100u以下とした。これは現在の規制内で町家を町家のまま存続させる為に余儀なくされる規模とされている。
 最後に、資金計画の上で町家改修の全体計画の中、1番目は不同沈下した基礎と柱を直す構造改修から入り、2番目に景観法に沿った外観の改修、3番目に宿泊施設の内装と設備機能のリニューアルと、順序を決めて予算を投下する事にした。そして、2階の居住部分や土蔵の修理等を、第2期工事の方に廻す事により予算枠を縮小し、今後の顧客の反応とリクエストと相談しながら、施設の将来計画を図ってゆこうというプロセスプランニングによって、工事を進めた事も貴重であった。
 界隈の雰囲気、家の歴史や親族の思い入れ、町内の事跡や西陣の人々の生業、町家に残る生活様式、前栽や蔵の有様、この宿に宿泊する人々が何を感じどういう反応をされるか、開業後を楽しみにしている。“五辻庵”の新事業の発展を祈りつつ……。

客室
客室
トオリニワ
トオリニワ
ゲンカン
ゲンカン

木下龍一(作事組理事)

2012.1.1