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京町家作事組

昭和モダン仏具店を再生─下京区西本願寺前 山本亀太郎商店


設計・アトリエRYO/施工・熊倉工務店


 昭和7年上棟の山本亀太郎商店は、堀川通りと正面通りが交差する西本願寺正面門前の南角に位置する、間口4間、奥行12間、1列4室型の町家である。北と西側が通りに面した角家(かどいえ)で、堀川通り本山側に向けて、3段の入母屋破風を設け、当初より軒先幕掛のラインに緑色ダイヤガラスの欄間と前面硝子戸を廻らせ、階高が高く、ミセの間に格天井を高々と貼ったモダンな内装が特徴的であった。しかし戦後の度重なる改造で、1、2階共アルミサッシがはめられ、新建材の壁や什器が並び、西日が店の奥まで差し込むため、見通しが利きすぎて、町家らしさが感じられない状況だった。2階にある茶室やモダンな応接室、品の良い座敷等は昔は接客に用いられた素晴らしい室礼であり、立体的に活用された優れたモダン町家であったようだ。恐らくは昭和初期の良き時代に、しっかりとした予算と優れた大工術をかけて材料を吟味し、当時輸入された鋼管柱や色硝子を採り入れて、ハイブリットに組み合わせた、和洋折衷の時代精神を具現した界隈屈指の名建築であったと思われる。御親族がライカのスーパーアンギュロン広角レンズで撮った、上棟式や竣工時の記念写真を残されていて興味深い。
 さて、今年は親鸞聖人750回大遠忌にあたり、東西本願寺界隈は全国からの大勢の参拝客を迎え、おおいににぎわいの様子である。施主御一家はこの機に際し、モダンで伝統的な町家の外観を景観法に沿って修景し、同時に店内の内装を、外観にふさわしいオリジナリティーを生かした店に改装して、新たな商いを企画しようとされていた。


堀川通からの景観


改修のポイント
 改修計画は、3間半5間半の矩折れに架けられたヒトミ梁(54p15p)を支える鋼管柱3本(100φ2本 60φ1本)を撤去し、代わりに12本の桧柱(150□〜120□)に差し換え、ヒトミに直交して梁行に4枚、桁行に2枚の半間袖壁と、ミセの北東、北西、南西3ヶ所隅に4つのショーウインドーを配置して、構造補強をすると同時に、町家店舗特有の深い光と影のコントラストを演出する平面計画を提案した。その後広いミセニワには、4帖敷のミセ座を復活させ、東側壁面に沿って2間巾の展示収納用の小ミセと、1間半の数珠掛け壁面を入口正面に設けた。これにより広大な店は、ニワとミセ座が相互に対比的に交わり、4つの変化に富んだショーウインドーが、ミセ空間を面白く動的なものに変貌させた。特に施主の発案で建物に合った古道具を再用した店棚の展示も、客に親しみと懐かしさの感覚を与えているようだ。こういった商品陳列の手法が、今後ますます工夫に満ちて展開してゆく可能性を楽しみにしている。又、ミセ、ゲンカン、トオリニワの伝統的間取りが、明快に表現されることにより、客への町家再生のテーマがより強く伝えられる様になった。

外観の修復ポイント
 外部廻りでは、1階に出入口2ヶ所の陰影にみちた硝子戸開口が出来た事に加え、2階の開口部に古色塗の木製格子窓を嵌め、外壁の腰を杉板古色にしながら、上部壁を黒大津塗にした。右隣に新築された龍谷大学美術館のコンクリート打ち放しとゆらめくセラミック化粧格子の壁面に対して、黒壁と木肌の古色、そして南側に続く板塀に、墨浅黄の壁面を挿入することで、山本亀太郎商店の固有の和風意匠とヴォリュームある存在感が、独特の連続立面を構成することになった。大きな三重の入母屋屋根も、一文字瓦と山亀紋様入りの鬼瓦で装飾され、ビルの林立する堀川通りの景観を和らげることに役立っている。特にショーウインドーの出隅欄間とその下に吊り下げたガラス格子に、森本康代さんのステンドグラス作品を投入し、外から覗く人の目線が自然に展示商品に注がれる様配慮した。施主自ら神戸の工房に出向き選ばれた、上品なヨーロピアンステンドグラスの色光が、店内を柔和に染めている。昭和モダンというテーマはこうした内外一貫した手法と生かし続ける努力によって今に蘇ってくると思われる。


堀川通からの景観

ショーウィンドー内観

木下龍一(作事組理事)

2011.5.1