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京町家作事組

近代数奇屋の改修─嵯峨野Mt邸


設計・末川協建築設計事務所/施工・山内工務店


 作事組での仕事は都心の町家に限らず、戦前木造であれば郊外にもむかう。嵯峨嵐山駅近くのMt邸は規模の大きい数奇屋であった。ご相談者の祖父君が竣工入居されたのが昭和16年12月8日、近代史の節目に造られたお宅である。一人暮らしをされていたお母様の元に関東から戻られるご夫婦からのご相談であった。

 はじめからご主人が課題とされていたのは大きく3点、地震への備え、屋根の状態、電気配線の古さである。改修の優先順位を教科書のように示していただけた。これからの暮らしに向けた要望も予算も間違いないよう整理された上での相談のご依頼であった。調査の所見と構造改修に対する姿勢、作事組での仕事の流れをお伝えし、想定の工事内容と概算までをご提示、時間をとって設計の上、工事に向かう運びとなった(設計中も丁寧な打合せ記録と次回までの検討項目をもれなく整理していただき、技術分野でお仕事をされた上で管理職を終えられたと伺い、しごく納得の行った次第である)。


延石の据え付け(工事中)
 立派な普請であり、大切に住まれてきた建物であって、増築部の梁の下がり、解体後に見つかった地下室のすぐ上の梁の下がりと浴室廻りの柱を除き、構造改修は必要なかった。一方複雑な屋根は、そろそろ葺替え時期で大屋根の葺替えと下屋の部分的な差し替えまでを行なった。今後のお手入れも考慮され、ご近所の徳桝さんに瓦工事に加わっていただくことも決めていただいた。あとは今後のご家族での暮らしのための改修、水廻りの更新、寒さ対策、そして電気配線の交換と左官などの美装である。


キッチン(改修後)
 新しいLDKは、下屋の小屋組を確認の上、盛り代え可能な柱と出来ない柱を仕訳けし、ハシリとダイドコとお茶の間の融通の効く組み合わせとなった。各所の床の段差を極力なくすことも含まれた。寒さ対策では、まず縁先のお便所を屋内に取り込む。そして全体が開口部で囲まれた数奇屋が寒さを凌ぐには設備だけに頼れるはずはない。開け閉めの重さや見付けの線が太くなることは納得いただいた上、アルミサッシに頼らず、居室の窓は欄間の障子も含めてすべてペアガラスで建合せとなった。この冬の寒さを加えても、過ごしやすくなり、外の雨音に気づかなくなったことは贅沢な悩みと言っていただけた。一方内部の建具は出来るだけ再利用も望まれた。


移設されたオクド
 実際に伝統建築が住み継がれるには「古いものの良さは当たり前」そして「必要な便利さも当たり前」、「無理はダメ」とは奥様の弁。毎日のようにご家族で工事中の現場を訪ねていただいた。延石や建具の再利用には工業製品とは違う良さがあると言っていただけた。洗いでペンキが落ち、元の木の肌が現れる過程も見ていただけた。先の改修でも残されていたかわいらしいオクドさんも煙突と神棚とともに外のハシリに移設できた。春には久しぶりに火を入れていただけるのを楽しみに願います。


末川 協(作事組理事)

2011.3.1