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京町家作事組

町家の修復と修景─上京区・My邸


設計・末川協建築設計事務所/施工・山内工務店


 

工事前外観

工事後外観
◎改修のポイント
 2008年の秋、町家の宿「胡乱座」の御当主より作事組の紹介があり、若いご夫婦から町家の購入、改修についてのご相談があった。河原町丸太町の新三本木、かつての遊郭の町割りが鴨川の西岸に残る一角である。調査に伺った町家は総2階にされたモルタル大壁の看板建築であったが、もとの町家もそれほど傷んでおらず、在来工法での工事も比較的良い仕事で、今後も十分に手入れできると判断できた。夫君はいずれ町家の1階部分でカフェを開かれる夢をお持ちであった。2009年の年明けに購入を果たされ、改修が実現した。  
 計画の内容は、町家の外観を取り戻すこと、ミセニワをもとの広さに戻し、階段を付け替えて入り口を広げること、営業に関わらず人の集う家にするため2階だけでの生活ができる設備を設けること、2階の増築の際に狭められていた火袋をもとに戻すこと等である。1階の座敷やハシリニワはそのまま直し、もとの内部の建具はすべて再利用することも決まった。小さなダイドコの収納式カウンターや台目の小部屋の小さな障子窓のアイデアも頂けた。柱の揚げ前、根継の必要箇所は今回1、2階別々に確認が要る。

2枚引込戸の建合せ

軒の下地新設
 設計、見積もりが出来た時点で資金的な判断により、外観の復旧とミセノマの改修は二期工事に持ち越されたが、2009年の春に一期工事が無事完了、町家への入居を果たされた。工事中に外壁モルタルの裏側で蟻害が見つかり、梁の補強が追加され、次の二期工事では妻壁のモルタル撤去が盛り込まれた。壁のこそぎや、もとの浴室の内装のこぼちにはご夫婦や友人たちも参加され、町家の暮らしが始まってからも壁の中塗りを続けられた。

平格子とミセニワの復旧、型板ガラスは元の腰高戸にあったもの

ハシリニワ

2階火袋上部のハイサイド窓
  そして一年後、2010年の夏に二期工事が完了、1階では軒の深い平格子の外観を取り戻し、2枚引込の格子戸が完成した。階高の高い2階では軒裏を化粧板貼とし、簾掛と高めの腰板貼でなんとかプロポーションが整うことを目指した。町家まちづくりファンドの助成を頂き、巾2間半の肘掛も実現することが出来た。一つの建物の中で町家の修復と在来工法の修景を同時に行なう工事である。二期工事では山内工務店の若手が現場を任され、軒庇では3本の天秤梁を嵌めなおし、腕木から新設、肘掛や簾掛けも金物を使わず、丁寧にベンガラを塗りながら組んでいった。工事中にご迷惑を掛けた軒下のお地蔵さんも、格子戸の中のハーレーダビッドソンも新しい乳母車も、新しい居場所に落ちついて見えることを願う。
  お施主の夫君は、二期にわたる工事を「町家そのものとそれを直すことを学びながら実現できた改修」と振り返る。その経験から「京都で町家に暮らすことは憧れではなく一つのしっかりした選択肢だと友人達にも伝えています」。一期工事の竣工時には遠方の現場に出張中だった妻君も、今回は子育てしながら工事を迎えられ「暮らしながらの工事は大変だったけど、毎日の進捗も楽しみで、職方との打合せに常に関われたことも有意義でした」。オクドや人研のハシリを活かしたカフェの開業も現実の選択肢となります日を祈念します。

末川 協(作事組理事)

2010.9.1