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京町家作事組

蘇らせた酒蔵を客との交流の場へ ─ 伏見区・増田桾コ衞商店


設計・一級建築士事務所アトリエRYO / 施工・安井杢工務店

改修後外観
改修後外観
 
■経緯など
 月の桂酒造、増田桾コ衞商店は、延宝3年(1675年)創業の京都市内では最も古い造り酒屋であり、現社長は今年9月に第14代目を襲名したばかりである。京の南、鳥羽街道の東側に間口10間、奥行5間半ムシコ2階の母屋があり、北側に5間四方2階屋の米蔵と南側一段降りて4間×3間の精米蔵を構えている。道の向かいには、鴨川と一緒になった桂川の広い河川敷を背に7棟の酒蔵群を擁し、今はそこで酒造と貯蔵・出荷を行っている。
 母屋は、中央に大戸口を構え、とおりにわに沿って、北側2列6室の居室を並べ、南側表に出窓の付いた帳場と平格子の隠居の2室をおき、その裏に3間半四方の吹抜けを持つ仕込みにわを持つ。
 慶応4年(1868年)鳥羽伏見の戦火で焼け、翌年に再建されたという。この下鳥羽名所ともいえる町家と酒蔵群は早くから京都市の歴史的意匠建造物に指定されている。
 今回の改修では、昭和35年頃の大規模改修以降手のつけられなかった屋根・小屋組・軸組の改修から不同沈下の著しい花崗岩切石礎石や川石の独立礎石の据え直しまで、後補の新建材やモルタルを塗り込めた町家にそぐわない改造部分を全面的に撤去し、伝統構法による復元的構造改修を行った。表側から母屋と米蔵は独立した棟に見られるものの、後背部は居室と縁側や廊下でつながっており、3世代が居住する大型住居として、2ヶ所のキッチンや水廻り部分が新しい設備に刷新された。町家の伝統的平面を修復しながら、2所帯の住居と造り酒屋の店舗接客機能、及び本店事務機能を、複合的立体的に再生する事が計画の最大のポイントとなった。大戸をくぐりみせにわに入ると、左にみせの間4,5帖とその奥6帖があり、右側には、日本酒展示カウンターと奥の事務スペースが見え、正面のノレンをくぐると上部の煙り出しの明かりを上に感じながら、左に上・下だいどころの敷台と右に広大な仕込みにわを臨む。その真ん中には黒レンガ積みの5つ竈土がでんと座り、垂直に煙突を立ち上げている。傍らに古民家から調達した欅古材のカウンターと日本酒の冷蔵セラーがL字に囲む。この場所は当初酒の仕込み場としてつくられた三和土のにわであったと思われるが、天空から降り注ぐ光だけの仄暗い空間は、代々の銘酒〈月の桂〉や13代桾コ衞が創った〈中汲みにごり酒〉〈古酒〉、14代目の〈新感覚の発泡酒〉など、客が賞味し、蔵元と交流するための大切な場になって貰えばと思っている。皆様方が下鳥羽を訪れる機会には、是非立ち寄っていただきたいと願いながら月の桂酒造、次代100年の存続とご繁栄をお祈りする。


仕込みにわのおくどさん
仕込みにわのおくどさん
  試飲カウンター
試飲カウンター


木下龍一(京町家作事組理事)
 
2009.11.1