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京町家作事組

連棟町家の構造改修─上京区・Ng邸


設計・末川協建築設計事務所/施工・アラキ工務店、山内工務店

◎改修のポイント
 黒門通一条上ルのNg邸は家主の奥様の住まれる北側の薬局と南側の借家が連棟でつながる明治期以前の町家である。昨年夏に60年ぶりに借家が空き、新規の賃借について京町家情報センターに相談があり、追って改修工事の相談先として京町家作事組が紹介された。借り手探しよりも、工事着工が予想外に早まり、相談、調査を担当した荒木棟梁が工事を監修し、山内工務店の若手職方が工事を担当という作事組内の協力体制が組まれ、「きちんと元通りに直す」と言う奥様の意向に沿って構造改修まで含めた町家の改修工事が実現した。連棟の町家では、所有が分かれたり、建物の歪みや沈下のままに各戸の仕上げが施されていることが多く、上げ前、イガミ突きを片方の町家からだけでは十分に行えないことが多い。しかし今回は理解ある施主により二軒の町家の同時の手入れが可能となった。

  借家の床、壁、天井を覆う合板をはがすと、主屋との間の北側壁で柱の沈下が大きく、その反対側に倒れがあり、通常のセオリーとは逆に南側壁を曳きながら上げ前を行い、その上で二軒の町家の倒れを北側に突く段取りとなった。主屋のハシリの床組を床下から側壁と切り離し、そのキッチンや水屋を側壁からはずし、毎日の暮らしに必要な設備の盛り替え工事と相番で、基礎石をすべて据え直しながら、昨年末に上げ前と根継ぎを完了した。年明けからはジャングルに見えるほどのジャッキとワイヤーを用い、二軒の町家のイガミ突きとなった。借家側から荷を掛けながら、ジャッキが止まるたびに、主屋桁側の袖壁のチリ際の土を切り落とし、建具枠を取り外し、更には二軒隣の町家の大屋根の壁付き水切りまでを一旦取り外し、一つ一つのハードルを細心の注意と思い切った判断でクリアする繰り返しとなった。倒れの戻りを防ぐため、今度は左官工事が相番で、新たに復旧した袖壁や垂壁を仕上げながら、仮設の筋交いと盛り替え、仕口の負けそうな箇所には補強を施しながら建物の立ちを戻すことが出来た。結果的に主屋でも20枚以上の建具を建て合せ、小屋組の改修に伴う左官の補修も増えたが、覚悟していた店舗の自動ドアや壁や天井、什器は傷めずにすんだ。
 
  途中、縁側通りのイガミが最後の5分だけ戻りきらず、これが限界かと思われたが、「中途半端なことではあかん」「工期もお金も判断するのは私、なんでも逃げんと相談して」と言う奥様の言葉を励みに試行が続いた。年末も正月も不自由なハシリに堪えて頂き、情報センター会員や作事組の他の相談者への見学会も快く受け入れて頂けた。構造改修にとどまらず、大切に保管されていた格子はベンガラが塗られファサードに戻り、床下から現れた町家よりも古いと思われる大きな深井戸もさらえて頂き、土間下に見つかった600年前の阿弥陀仏は大切に壬生寺にお奉りして頂けた。町家の大切さを確信し、技術者を信頼し、力を出し切れる機会をくださった施主に感謝しています。

改修後のファサード
改修後のファサード
2階内観(改修後)
2階内観(改修後)

庇の改修

室町時代の阿弥陀仏

2階でのイガミ突き

末川 協(作事組理事)

2008.5.1