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京町家作事組

虫籠窓を復元し、地蔵盆の場にふさわしい町家に ─上京区・Yh邸


設計・内田康博建築研究所/施工・山内工務店

◎経緯
改修前のファサード
改修前のファサード
腰壁に隠された壁と柱の傷み
腰壁に隠された壁と柱の傷み
 まずはじめに改修にむかわれるお気持ちをお聞きすると、父母が大切に住まわれ、自身が生まれ育ち、受け継いだ町家を、昨春就職された息子さんにいずれ安心して受け渡すことが出来るようにとのことだった。また、現在は裏手に新築された離れに主に住まわれているが、時を同じくして出産を迎えられた娘さんの里帰りも重なり、居住スペースを主屋にも広げるため、建物の傷みや歪みを直すのと合わせ、全体を住みよく改修したいとのご希望であった。屋根の瓦は古く、時折の雨漏りが気にはなったが、予算配分の都合から工期をずらし、結局半年ほど後に全面を葺き替え、一安心となった。

◎改修のポイント
 この町家は中立売通を千本通りから西へ向かって程なく南面して建ち、ツシ2階の背の低さと立地から築150年程とみられる。構造体の歪みをみると、大黒柱から奥の柱が45〜52ミリ下がり、建物全体が鴨居レベルで22〜72ミリ西へ倒れていた。その他、トオリニワの合板の腰壁に隠された土壁の足元はおおきく崩れ、柱の根元は蟻害がみられた。2階の中の間の合板天井の裏では母屋が継ぎ手で大きく下がり、瓦が波打っていた。町家の壁や天井を合板で覆い隠すことの害を改めて実感させられた。
 両隣の建物との間の雨仕舞の板金の様子を見ながら揚げ前、歪み突きにより構造体の歪みを直し、傷んだ柱の根元は根継ぎを施し、下がった母屋には補強梁を添えた。それに伴い1階の壁は塗り直すことになったが、ツシ2階の中塗り仕舞の土壁は部分補修と埃落しで済んでいる。
 ツシ2階の低い窓の両側には壁の裏側に虫籠窓が残されていた。Yh夫妻のご希望で、それを元に窓の部分の虫籠窓も復元し、内側に引き違い窓を新設した。ツシ2階は物置とされていたが、屋根なりに杉板の天井を張り、床も新たに板張りとして居室とし、2階中の間に低く張られた天井と壁の合板を撤去して同じく杉板の天井を張り上げることで広々とした空間となった。瓦を葺きかえるのに合わせてトップライトを増やし、より明るい空間としている。

◎地蔵盆の場として
 昨年8月の地蔵盆では、Yh邸が町内の子供たちでにぎわっていた。出格子をはずし、ミセにはお地蔵さんが祭られていた。会場が見つからず、数年ぶりの地蔵盆とのことだった。施主自らもペンキを剥がし、弁柄を塗った木部と、漆喰を塗り直した土壁と虫籠窓で落ち着きを取り戻した町家が、ハレの日を迎えていた。

ツシ2階から虫籠窓をみる
ツシ2階から虫籠窓をみる
地蔵盆の飾りつけと、町内の子供たちの自転車
地蔵盆の飾りつけと、町内の子供たちの自転車


内田康博(作事組理事)

2008.3.1