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京町家作事組

施主が改修に積極参加した京町家 ──下京・Td邸


設計・(株)クカニア/施工・堀工務店

◎改修のポイント  
 お祖父さんが住まわれていた築約70年の2軒長屋の借家を、お孫さんである施主が改修して住みたいという相談であった。
 現況は、オモテの間は土間に、ナカの間とオクの間は天井が低かったためか、一旦床を下げて、さらに部屋を仕切る敷居を無視してクッションフロアーを敷きつめて1部屋になっていた。2階は6帖・2帖・8帖の和室であった。お祖父さんが、戦後ジュース工場を営まれていたために土間が広く、通り庭は床が上って台所になっていた。また、各部屋の天井や壁には合板が張られ、火袋には天井が張られていた。

↑改修前外観
←改修後外観
 若い施主は、このような状況の家をできるだけ元の町家の姿に戻したいと希望されたが、予算が限られていたため、改修の取捨選択をするのに苦労された。相談した結果、まず最初に、最も傾きのひどかった2階オクの間の南側を含む、急を要する3ヵ所の揚げ前工事をした。施主が小さい頃遊びにきていたときからひどく傾いていたとのことである。
 また、壁をめくってみたら、2階南側の隣家との間の外壁の傷みが著しく、急きょ補修工事をした。次に、広い土間を利用して軽自動車を2台停めたいという要望があったが、ジュース工場時代に土間を道路側に拡張していて、その際に邪魔になる2階を支える大事な柱を撤去していた。今回の工事では、間口の中央に柱を設け、きちんと補強した上で、4枚引きの格子戸を新設した。この格子戸が改修された町家の顔となった。

 さらに、水廻り部分の改修として、台所部分は古くなったキッチンを新しいものに取替え、合板張りだった天井は撤去して火袋を復元し、壁は左官仕上げ(漆喰塗りと中塗り)とした。狭くて暗かった台所が、吹抜けのある明るい空間となった。また、脱衣スペースがなかった浴室は、既存のユニットバスの向きを変えて、脱衣スペースと洗面所を確保した。外壁の補修など予定外の工事に予算を取られたこともあり、家とユニットバスの境の壁には苦肉の策で透明波板を利用して自然光を取り入れる工夫をした。
 その他の改修としては、1階の床を板張り、壁を中塗り仕上げ、2階部分は、特に傷んでいた部分を中塗仕上げとした。予算上2階の畳は新しくすることができなかったので、施主が古い畳の上から敷畳を敷かれた。建具は、作事組会員が保管している古建具の中から、施主と一緒に選んだ。特にナカの間の組子の建具は、施主の大のお気に入りで、土間の漆喰壁に白熱灯の光で映し出された組子の陰影がとてもきれいだ。

改修後 駐車場

改修前 駐車場

組子の建具

改修後台所

改修前台所
 施主は、自分たちができる工事を施工担当である堀工務店の堀さんから教わり、火袋や、天井裏の掃除などを真っ黒になりながら積極的にされた。この現場は、再生研と作事組が主催している京町家棟梁塾の実習にも使われ、土間の三和土(たたき)と柱・梁のベンガラ塗は、塾生の手によって仕上げられた。三和土の施工は、叩く道具で力いっぱい叩かないといけないので、手の豆がつぶれるほどだったそうである。最後に、もともと前栽だった部分は、波板で屋根が架けられコンクリート土間にスノコ敷きで、半屋内状態になっていたが、造園業をされている施主によって、素適な庭に改修されるそうである。完成が楽しみだ。
牧 旬子((株)クカニア)
2006.9.1