住まい手の高齢を受け入れる町家に──上京・Fz邸設計・末川協建築設計事務所/施工・山内工務店 ○改修のポイント Fz邸の施主ご夫婦の夫君は、同じ上京の町家の宿「布屋」のご主人の昔からのご友人で、作事組への相談は、転ばれて脚と腕を痛められた母上が、住みなれたご実家の町家で次の冬を安心して迎えられるようにすることであった。立派な大黒柱や地棟をもつ大正期の持ち家ながら、3帖、2帖、4.5帖の1列3室に余分のスペースは無く、いつか元に戻せることも想定の内で、段差と寒さの解消のためハシリの床を上げ、中戸の内側に手摺付の昇降口を設けた。今後、施主ご夫婦もご一緒にすごす機会が増えるため、ミセとダイドコを一体に、椅子使用のできる板間とし、出格子の内側には変則4枚の障子、階段には吹き降ろし除けに軸吊の板戸を設けた。ダイドコの奥行スパンが一間で階段の勾配を落とす訳にいかず、新築の水廻りをコンパクトにすることで小さな離れを設け、布団の上げ下げなしの寝室とし、母上の1階だけでの生活が完結するプランとした。屋根を除く内外装の改修では2階も含めてやり残しの無いように努め、手に触れる部分では、施主ご夫婦の妻君の細やかな気配りを反映するよう心がけた。 住まい手の半世紀を越す暮らしを見守った町家が、今後もつつがなくそれを受け入れますよう祈念します。 末川 協(京町家作事組理事)
改修工事では、不同沈下のあった大黒柱の通りの揚げ前を行い、呼び樋の漏水から蟻害を受けていた南東隅の通柱に添柱を抱かせた。倒れは少なかったものの、もともとの通り芯のゆがみが大きく、フローリングは入念に割り付けた。同様に畳のシミズ掛けも大変だったが、畳のトコはどこから回ってきたのか、作事組の東奥畳店さんでかつて作られたものだった。雨漏り跡のあった2階の天井をはがすと一間半の間口に1尺以上の径の地棟、松の框の登り梁、いずれももっと古い町家の古材が現れた。ダイドコの床下からは、どこかのお寺の棟木が見つかり、挽きなおして敷台や昇降口の踏み板に使うことができた。縁側の床でも、折り良く別の解体現場から出た松の縁甲板を貼り、古材同士がなじむように配慮した。襖以外のほとんどの建具も継ぎ足しながら建合せて再利用を行った。
2006.3.1
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