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京町家作事組

住み手のこだわりを改修実践にいかす …中京・Tk邸


大谷孝彦(作事組理事)


 一歳半のお嬢さんのある若いご夫婦が購入された町家の改修である。路地の奥にある一軒家で、昭和12年築の二列三室型の二階建であり、表側の一階に一部屋の増築がある。また、通り庭はしりの床を上げてキッチンセットが設けられており、はしりの吹き抜けに奥の半間を残して二階床が張られ、物置となっている。その他、壁面に合板が張られ、通常よく見られる改変の状態である。
外観(改修前)
  外観(改修後)

便所手洗い器
 改修にあたっての基本として、建物の傷み具合を調査し、その結果、奥の下屋の屋根まわりの補修を行ったが、床の不陸を直すための揚げ前は一ヶ所のみを行った。今回の改修としては間取りなどの大きな変更はない。二階は通り庭上部の吹き抜けを今回もう半間広げることとなった。その結果、キッチンは幾分明るく、開放感ある空間となった。その他、浴室、便所、キッチンなどの部分的改修である。
 ただ、ご夫婦の町家に対する思い入れ、こだわりが大変強いものであり、個々の素材、おさまりについての具体的な要望があり、衛生器具や照明器具などもご自分で仕入れたものが支給されるという形になった。

掘り出しものの建具
浴室
 例えば、洗面器具にはあえて浅い実験用流しを入れ、トイレの手洗いは陶器の底に穴を開けたものを使っている。キッチンは床を土間に戻したいという希望であったが予算の都合でこれは次回への持ち送りとなった。そのためキッチンセットは現状のままであるが、天場には厚さ30mmの堅板を敷き、下部には新たに木の扉を取り付けている。キッチンとダイドコは一体的となり、その奥の畳間の間の土壁には90センチ角の下地窓を設け、部屋間の繋がりを作り、また、空間におしゃれな素朴さを醸し出す要素となっている。浴室、脱衣洗面所は元の広さのままで、あまり広いものではないが、両室の壁、天井、床仕上げを共通にし、間を引き違い木製透明ガラス戸とすることによって、狭さを和らげている。浴室窓は浴槽上の低い位置に設け、湯につかりながら庭を見下ろすことができる。外部の窓は二階がアルミサッシとなっていたが、今回、表側の窓を木製ガラス窓に戻した。内部の建具は工務店や建具屋にストックされている古建具を探し求め、現場に持ち込んで感じを確認しながら決定した。
 その結果、網代戸や細かい縦桟の戸など随分趣のある建具が入手できた。玄関の下足入れは掘り出し物の横桟戸の寸法に合わす形に作った。電気のスイッチの一部は建物に残っていた古い型のものを活かし、配電盤も今風のスチールボックスに納めるのではなく、変木の板の上に並べて取り付けた。木部の塗装は手描友禅をされる奥様自らの仕事として残されている。デザインの経験もある施主の町家に対する大変な思い入れと、センスの良い遊び心のこだわりに、現場としては、多少の戸惑いもあったが、楽しみと感動を覚える改修実践であった。