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京町家作事組

素朴に町家を改修 …清水Ot邸


堀内 健(作事組理事)


 世界遺産に指定されている「清水寺」のふもと、観光客で賑わう参道から、一歩入ったところにある空き家になっていた町家が再生されました。
 オーナーの「お祖母さん(女流日本画家)」が不在になった後、7年ほど空き家になり、傷みが激しく進みました。その状態を見たオーナーから「壊さずに住んでもらえる人に貸したい!」と言う相談が京町家情報センターにあり、情報センターから「直すのにどのぐらいかかるか、教えてほしい」との依頼が作事組に届き、早速見積りを致しました。
 傷みが著しかったため、改修見積もり費用がかさみ、オーナーが全額負担することは困難でした。そこで情報センターから改修費を躯体構造改修費とその他の内部改修工事費に分け、構造に関わる部分をオーナーが負担し、内部改修に関わる部分を借りる側が賃料の一部を先払いという形で負担する、という方法を提案し、その条件で「京町家情報センター」が、借主になる人を探したところ、借主が見つかり、改修工事を行うことになりました。
 この家は元々、裏に隣接していた「料亭」の従業員の寮として、使用されていました。よって、造りも裏表逆であり、現在の玄関門の傍に土間落ちのトイレがあり、特に表庭の「塀瓦」は「並塀垂れなし」が使用されており、創建当時は、表裏が逆だったことを思わせます。
 解体後、屋根裏からは「棟札」出てきませんでしたが、言い伝えでは「築約100年」ということをお聞しました。
 造りは、座敷2室、上がり口、走り、外のトイレ、2階は座敷2部屋、木置きと、火袋が残る「こじんまりとした家」で、浴室はなく、連棟になっていた模様です。内部は殆ど大規模な改修跡は見当たらず、部分的な改修で今日に至った形跡が判りました。
 予測外の故障も多く、山すその地形のため、地盤が軟らかく、基礎補強が必要になりました。また水路跡も見つかり、湿気対策の工事が早々にでてきました。
 構造材は一部を除いて、腐食や蟻害は無く、湿地でも床下の通風の良さが、被害を最小限度に押えたのではないでしょうか。工事では出来うる限り構造材や床組の「締め直し」を行い、下屋の補修では、瓦撤去後野地や垂木の傷みが激しく、軒天まで改修することになりました(これは手持ち材を工面して、予算内に収める事に)。
改修前(左)と改修後(右)

 また、不陸やイガミが激しく、不陸は約60ミリほどあり、「揚げ前」工事では、ジャッキ板が地面に食込むほど地盤が軟らかく、揚げ前した柱の基礎石の下に、更に大きな板石状の物を敷き、支える面積を広くして、基礎石の下地補強を施しました。それは直接地面に束石を置くより、間接にして、「湿気の吸い上げ」を防ぐ工夫でもありました。
 また、隣地が当家の地面より高いので、水の流れを止めるため、外壁の隣接する外壁の足裾に「窯業系」の板を差込、床下への水の浸入を防ぎました。
 イガミ突きは両隣が一部連結している為、動かない柱等は「足元」を移動し、無理に起さず、視線による「違和感」の無い様、「たち」を修復し、床下で根がらみ補強工事を行いました。
 今回の改修工事で大きく変わった箇所は「浴室の新築とトイレの移設」程度で、オーナーや借主から「出来るだけ現状の雰囲気を残す改修」を依頼されました。
 掘りコタツや障子、ガラス戸などは全て既存の物を修復し、雨戸などは両枠が古材で後「鏡板、胴縁敷、他」など9割新材になり、他の建具も似た様な補修が多くありました。新設の建具も古建具商にて調達を行い、古色をかけ、他と違和感が無い様気をくばりました。新規浴室は「浴槽に浸かりながら、木の香りを楽しみたい」との希望で、壁、天井も自然木の板を施し、「湯気」を絡めて、森林浴ができるかと思います。
 土壁の仕様についても、左官工事担当の「佐藤さん」に現場で、色々と相談に乗ってもらい、仕上げや色サンプルを数多く造ってもらい、オーナーと借主と一緒に決定してゆきました。
 塗りたてのころは「無地」でしたが、「引渡し」の頃は面白い様な「サビ」が壁から浮かび、「湿気の効果?」がありました。
 天井や木部はきれいになり過ぎぬ様、また風合いを出すため「軽く水洗い」に止め、「素朴さ」を出し、照明器具は殆どが、借主が「古道具市」や「骨董屋」でコツコツと貯められた物で、大正ロマンのガラスセードより漆喰壁に反射し、調度品までゆったりと照らしています。
 作庭も借主が楽しみながら整えるとの条件で、荒地のまま引き渡しました。
 借主は改修中、よくビデオカメラ片手に現場に訪れて、各職方に改修内容を色々と質問したり、また「あの照明はこの部屋に、家具はここに! 庭は…」と楽しみながら構想されており、入居後も、家に対して、益々愛着を持って行かれること思います。
 改修後の見学会では、60余名の参加者があり町家への関心の高さを改めて感じました。
 特に近所の方が「(工事中)どないなるんかと、思てたんぇ!」と、中に入り、原状修復をみてもっとも驚かれ、「壊さんと、よう残してくれはったわ!」と自分の家のように喜ばれ、なんと言っても、オーナーの一族が訪れ、生まれ育った家でもあり、また50年ぶりという親戚の方もおられ、老朽化した室内や、朽ちた「塀」等を一番間近で記憶に残っている残像から、予想だにしない原状修復に、感慨深げに柱を摩ったり、また全体を見渡し子供の頃を懐かしんだりと、種々様々の思いが走馬灯の様に駆け巡るのか、見学会が終わっても、代わる代わる写真をとり、別れを惜しむ様をみて工事を行って良かったと心から思いました。
 改修や見学会を行う事を通して、1戸から近隣とのかかわりが、自然な形で町に溶け込み、ファサードだけではなしに、心も繋がって居る町並になる事を望んで止みません。