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京町家作事組

京町家に合う照明器具の選び方
堀 宏道(京町家作事組 電気工事士)

 京都には寺が二千とあると言われているが、この寺をご存じの方は、京都検定合格者でもおられないのではないか。おそらく誰に聞いてもその寺がどこにあるのかも分からない。これぞ知る者ぞ知る、まぼろしの寺。確かに地図には載っているが、近所の者でさえ首をかしげる。しかしこの寺を訪れる観光客は絶え間なく、あの黒澤明監督もその一人であった。

 その寺は京都のど真ん中、中京区は柳馬場、御池を下がる(南へ)に位置する。かつては私の中学時代の通学路でもあった場所だ。今も柳馬場通りに面した「旅館京の宿石原」の敷地内の北角に実在する。

 毎朝打ち水される石段を上がり、閂を抜き、観音開きのこの板門が開くと、中には日本最古かと思われるぐらいのおじどう様がこちらを向いている。熱心な信者が好む坊主頭と凛として穏やかなお顔つき。お水がかけられ、磨かれた灰色のお体は銀色に輝き、両側に携えられた一対の円形の後ろ鏡がそれを映している。少し煤けた小さく愛らしいマフラーには線香のような煙が漂う。左右四枚戸の上半分にはガラス戸がはめ込まれ、上げ下げすることができ、町家の風が通る。最前にある草冠の銀色のお飾りが馬場である。しかしその外見とは一転して体内には冬でも水で清め、油を食らう円人が宿ると言われ、この剛力たるや馬の力以上。これが唸り、闇夜には両目が眩しく光る。この時は恐ろしく、とても前では拝めないという。逆らえばあの世行き。その逮夜のお参りは前後4ヵ所でできる。お不動と思っていたらびっくり、盆暮れを問わず、シーズン中は珠数つなぎの市中を安全祈願で出家。道を迷わず法の教えにより必ず北に向かう。少々は息を切らすが、なんと現役で北山、東山を走って回っておられる。それでもお供をする者はそれを極楽だと手を合わす。だいたい鳥居というものは朱色なのに、なんで青い鳥イ!?実はそのお自動様とは・・・「ダッドサン・ブルーバード」という寺家用車のことだった。

 この車がなぜ今日まで存在しているのか。それはご主人がモノを大切にされている事に尽きる。その結果がこのように古いモノとなってしまったということなのだ。モノを大切にすることは当たり前であっても、ここまでくるとそう簡単なことではない。しかし京町家の住人は昔からそれをしてきた。だから町家に住んでいるとも言える。ところが昨今の町家ブームで住み始めた人はこれがなかなか出来ず、この差を埋めるがごとく照明器具を選ぶ時にわざわざ骨董の器具を選ぶ方がおられる。まだ使えるモノをほかして(処分して)古い物を買う。これはちょっとおかしい。

 それ以外の選び方なら京町家の照明器具は何で良い。例えば電球タイプなら暗いが落ち着く。蛍光灯やLEDなら明るく経済的だ。提灯はもちろん、スポット、ブラケットにペンダントなど、町家の許容範囲は広く何でも合う。祇園祭の鉾の見送りがギリシャの織物である様に、京町家は外国製でも結構合う。そしてそれらを長く使っていくうちにさらに似合う物となる。  
 
 それにしても石原さん、この寺は長く生きたモノに我は礼を言い、そしていつかそのモノからもありがとうと我に礼を言ってくれる・・・そんな教えもあるのでしょうか。
 ほんま洒落た「我礼寺」ですね。