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京町家再生研究会

明治維新の町家を新築する

木下龍一 (京町家作事組代表理事)



新築町家外観

玄関庭

前栽
近年、京都市中の町家がどんどん減少している。そんな中で、2014年10月に下京松原通室町西入南面で、本格的な京町家が新築されたという噂を耳にした。今春3月8日、町家の日のイベントで「都の魁」展を企画した、パウロ・パトラシュク氏に教えて貰い、旧五条大路中野之町のほぼ真ん中、小田原町通西南角に建つ、福田金属箔粉工業株式会社の資料館を見せていただいた。
 建物は、片入母屋真壁ムシコ2階表屋造りで、外観は、幕末どんどん焼けの後明治初期に再建された当時のままに新築されている。その姿は、明治16年に出版された、京都の商工案内冊子「都の魁」に掲載された、石田有年の銅版画を手本として復原されたという。  暖簾をくぐり中に入ると、ミセニワには床机が置かれ、東の壁面には、古い金箔地の大和絵屏風が掛かっている。店正面は、上り框と板敷玄関を構え、衝立の奥に主屋の展示ホールが広がっている。左側には、ガラスに囲われたゲンカンニワの坪内があり、右側に階段が控える。ゲンカンニワには、箔打台の黒石と、水車で箔粉を作る4穴をうがった臼石が配石され、天空からの光を浴びている。
 玄関に上がると、トオリニワの火袋下に、元禄13年(1700年)創業者福田鞭石の町屋敷借受状や、2代練石の表した家憲「家の苗」等歴史史料が展示され、横に近代の箔粉製造機械も陳列されている。更に右側には、入館者に会社の沿革を解説する大型ディスプレイと、B.G.Mを奏でる自動ピアノがある。
 外観は、明治期の復原を目指したが、内部は現代的条件で計画されたと説明された。しかしながら、町家の木造構法に感じられる伝統性や、展示室正面奥に展開する前栽の風景が与える印象には、この場所に重層する歴史的文化的存在感を直感することができるように思う。
 それはなぜか? 通常、町家の奥主屋の縁先には、渡り廊下、土蔵、ハナレに囲まれた、明るい場所が開かれている。300年を越す時を経て金銀箔商「井筒屋」の屋敷地にも、時代による家業の変遷の中に、さまざまな意匠の根が宿っているに違いないのだ。石庭に浮かぶ苔島に、2本のもみじが植栽され、新緑の枝が薫風にそよぐ姿が、磨きこまれた松の床板に映りこむ景色に、訪れる客は感動を覚える事だろう。
 主屋の奥に明るい前栽を配置し、蔵の壁から反射する陽射しで座敷を間接に照射する、京町家の美は、この受け継がれた風土の記憶として、町の遺構や地下の埋蔵物の中に深く刻み込まれている。現在から未来に向かって、時を越え継承される「家の苗」の思想を伝承する為に、創業の心を表す町家を再生された、福田金属箔粉工業株式会社の皆様に心からの敬意を表するしだいです。
2018.7.1